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第48話「玩具」

風邪を引かせたくないからと髪を乾かそうとしたのだが、藤崎はバスタオルで拭くだけで良いと言って聞かなかった。 ベッドルームの折り畳み式のドアを全て開け、藤崎はガロガロと壁にくっつけて置いていた2人分の荷物が入ったキャリーケースを転がしてきて、素っ裸の義人が座っているクイーンサイズのベッドの前でそれを広げた。 バカン、と空いたキャリーケース。 やはり、何やら黒い重そうな質感のものが何個ずつか増えている。 義人が入れた覚えのないものだ。 「はい、ゼリーちゃん」 「ん。これはいつものだ」 とぷん、とはちみつ色のボトルの中身がたるむように揺れた。 「うん。次これ、ゴム」 「ちゃん付けは?ん。ん?このゴム、俺が入れたのじゃない」 「お口で付けてもあんぜーん、って言うの買ってみた。義人、口で付けてみたいって言ってなかったっけ?」 「言った。これそうなんだ、やったあ」 「、、ふふっ」 義人は初めて見るゴムの箱を開け、中から黒い小さなビニールに入ったそれを取り出す。 やんわりと勃ち上がった性器を隠す事なく晒している義人がそんなものを持って楽しそうにベッドの上で袋の裏の説明を読んでいると、とてつもなく犯罪臭がした。 (童顔だもんね、義人。俺、買春とか援交してる気分だよ、、) まるでそう言うドラマのワンシーンだ。 ブンブンと頭を振って雑念を払い、藤崎は次にジップロックのついた袋を何個か持ち上げて、袋の中身を出しながらベッドの上の義人に手渡して行った。 「こ〜、れは、、?」 「お尻の穴に入れてブイブイ言わせるバイブ」 「へっ?」 黒色をしたそれを渡された義人は「何だ?」と言う顔で眺めていたが、藤崎に正体をバラされ、ボト、とシーツの上にそれを落っことした。 L字の短い辺がグイッと上を向いたような、言うなればちょっと鋭いL字のそれはどちらの辺の先っぽも少し膨れていて、明らかにどちらかは尻の穴に入れる構造になっている。 多分、長い棒の方だ。 義人は恐る恐るそれを持ち上げ、またジッと見つめ出した。 L字の下の短い辺の付け根には、銀色のボタン部分があり、ボタンが2つ付いている。 「それか、こっち」 「え」 次に手渡されたのも黒色だが、明らかに男性器の形を意識したL字の長い棒と、短い辺は内側に向かって緩くカーブを描き、その短い辺の先っぽに縦に輪っかが2つ連なった部分があった。 「これも、?」 「それもバイブ」 「金、いくらかけた」 「内緒、、」 「おい」 藤崎がわざと恥ずかしそうな顔をして口元を隠したので、箱から出していたゴムの袋をひとつ投げ付けておいた。 見事にそれを左手で叩き落とすあたり、義人は藤崎の運動神経と瞬発力を尊敬している。 「こんな太いの、、入るかな、、」 ゴク、と唾を飲みながら手渡された2つの太いバイブの先っぽを眺める。 何とも艶かしい、人の穴にハメる形をしていて見つめるのが恥ずかしくなってきた。 「太さ俺のと同じくらいだよ。あ、そこ、先っぽがね?」 「え?あー、そっか、そうなんだ」 「オモチャに太さで負けたくなくて自分の測って勝ってるオモチャにした」 「お前が負ける太さもあったの」 「あった。悔しかったっす」 「知らんよ。んん、なんかさ、エロい形、してるよな」 ゴロン、とベッドに寝転がり、義人は渡されたバイブ2つを両手に持って上にあげた。 何ともこう、挿れるぞ、と言う形にまた後ろの穴がきゅんっと締まる。 (ヤバい、、挿れてみたい) ごく、と唾を飲む音が響いた。 腕を下ろしてゴロンと寝返りを打ってうつ伏せになると、義人を見つめながら愛しそうに目を細めている藤崎の顔が見えた。 「、、なに」 「俺が選んだ方挿れていい?」 「ん、、いいけど、まだ、待って」 「心の準備?」 「うん」 好奇心も興味もある。 けれど、生まれてこの方、ここまでちゃんと藤崎の指と性器以外で後ろの穴にガッツリ挿れるものもなかったので、えっちな形に興奮しつつも義人は少しだけ怖がっていた。 痛いのは嫌だし、苦しいのも嫌だ。 挿れて取れなくなるのも怖い。 「じゃあ他のやつの説明続けて良い?」 「えっ!?まだあんの!?」 「あるよ」 へら、と笑った彼を見つめて呆気に取られた。 性欲大魔神とは思っていたが、自分に黙ったままここまでアダルトグッズを買い揃えている恋人と言うのはどうなのだろうか。 キャリーケースの藤崎が詰めたゾーンからまたジップロックのついた袋が取り出されて開封される。 何だか通販番組のように見えてきてしまった。 藤崎が宣伝員なら誰だって買うだろう。 「いらっしゃいませー!買ってくれたら俺が喜びまーす!」 とか言ってそうだ。 そして注文が殺到して電話の回線はパンクし、サイトはアクセスが集中してダウンするんだろう。 「あとこれ。オナホと電マ」 「おなっ、ほ?電マ、」 藤崎が手に持った肌色の筒とピンク色の小さめの電マを見つめる。 小人の性器部分を切り取ったように人間のそこより一回りも二回りも小さいが、AVで見た事がある女性器の外側と同じ見た目をしているオナホ。 ぶにん、と藤崎はそれを揺らして見せ、ピンク色の電マはとりあえず縦に振って、持って来たよ!と示してくれた。 「オナホ初めて見た。電マは電気屋にあるけど」 「あ、確かに」 「まあピンク色は初めて見たけどな」 「あはは!それな。オナホは俺も実物初めて」 「えっ?そうなの?」 「んー。いらなかったし、ね」 「あ〜」 ぶにん、ぶにん、とオナホを横に揺らして遊びながら、藤崎はどこか遠い目をしてそう言った。 義人は正直カチンとしたが、今のは自分の話題の振り方的にそう答えるしかないのだから仕方ないだろうと思い直す。 決して、藤崎の元彼女達に妬いているのではない。 義人は案外、元彼女達の事はどうでもいいし気にしない。 ただ、彼女がいなくてオナホに頼らなきゃいけない期間が人生において全くなかった、と物語る藤崎の視線がやたらとムカついたのだ。 (まあ俺も持ってないけど、何か怖かったし) 対して義人は適齢期になっても彼女と言うものがいない時期もそれなりにあったものの、それでもオナホは買わなかった。 彼の場合、自慰行為と言うものがまず少なく、必要なかったからだ。 「で、こちらを持ちまして」 「?」 オナホと電マで最後かと思いきや、藤崎は最後に色のついたビニール袋を取り出して、それとオナホと電マを持ったまま義人のいるベッドに近づく。 来る途中、今度はしっかりと寝室の折り畳み式のドアを閉めてくれた。 ギシ、ギシ、とスプリングを鳴かせながらベッドに上がり、義人が寝転がっている所に近づくと、彼の周りにはバイブ2本とコンドームの箱、潤滑ゼリーのボトルが散乱していた。 それをかき集めてオナホと電マとビニール袋も合わせて1箇所にまとめると、緩めにえっちなスイッチが入ったままになっている義人の上に藤崎は覆い被さった。 「お待たせ」 「バカか」 パシンッ、と平手で顔のど真ん中を叩かれ、鼻が痛んだ。 しかしめげずに舌を出して義人の手のひらを舐め上げると、彼は「うわっ」と低い声を出して手を離し、それをシーツに擦り付けた。 「義人」 「あっ、ちょ、いきなりはやめろ、不意打ちはナシ」 ピンッと指で乳首をはじくと、義人の肩が震える。 はあ、と熱い吐息を吐くところを見つめてから、藤崎は彼の胸元に顔を寄せた。 「可愛い乳首いただきまーす」 「あ、久遠、待って、ぁんっ」 ねっとりとした熱い舌が、制止を振り切り義人のぷっくりとした乳首に絡みつく。 全裸でベッドの上でゴロゴロしていた義人は前触れはあったものの急に襲われ、左乳首をチュッと強く吸い上げられ、みるみる内に下半身のそこが熱くなって勃起してしまった。 「あ、ん、んんっ、俺、勃った、久遠」 右側の乳首は指先でこねくり回され、時折りくにくにと上から潰されている。 どちらの乳首からも少し違った刺激が与えられ、義人はすぐにとろんとしただらしない顔になってしまった。 「乳首好きだもんね。勃っちゃうよね」 「ぁんんっ、乳首好き、んんっ、久遠にちゅうちゅうされるの好きだ、んっ」 「煽らないでよ、義人。ちんこ痛くなってきた」 藤崎もこの後自分が彼にしようとしている事を思い描くと、どうにもブクブクと興奮が湧いてすぐに性器を勃起させた。 何も着ていない義人に覆い被さっている彼自身も何も着てはおらず、肌と肌が直接擦れるように、わざと藤崎は義人のそこに自分の股間を押し付ける。 「んひっ、んっ、や、」 「義人、ちゅーしよ」 「や、あっ!」 ゴリゴリといじわるに擦り付けられるそこの熱さが全身に周りだし、義人は震えながら微かに瞼を開けて降ってきた藤崎の唇を受け入れる。 体温を混ぜるようにしばらく貪り合い、舌を絡め、しゃぶって、それを何度か繰り返してから息が苦しくなって、義人は藤崎の胸を押した。

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