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第51話「焦り」

ようやく止まったバイブに息をつき、義人は涙でぐちゃぐちゃになって歪む視界で見慣れない天井を見たまま、腕を動かして藤崎を探した。 「はあっはあっ、はあっ、ん、久遠、んっ、久遠どこ、久遠っ」 「ん、ごめん、可愛過ぎて見惚れてた」 藤崎は義人の手を握り、電源を切ったリモコンをシーツの上に置くと彼に覆い被さり、ちゅ、と額にキスを落とす。 それで安心したのか、全身に入っていた力が抜けて、義人は身体をだらんとさせながら何度か瞬きをする。 やっと涙が流れ終わると、水滴のついた自分のまつ毛を見つつ、藤崎の顔を見上げた。 「イケたね。綺麗だったよ」 優しい笑顔だ。 どことなく艶かしい雰囲気があって美しい。 流石に乾いて来たミルクティベージュの髪に手を伸ばしてわしゃわしゃと触ると、とろんとした顔のまま口を開いた。 「ぎゅってして。怖い、久遠」 初めて藤崎ではないものでイッてしまった。 震える程怖いだとかそう言うことではないのだが、遠ざかったような寂しさを感じる。 「ちゃんとここにいるよ」 「んっ、久遠、、」 「好きだよ」 藤崎は良く「好きだ」と言う。 それは別段セックスのときだけの言葉ではなく、普段から隙を突くように言ってくるので、もう口癖のようになっているのではないかと義人は思っている。 ただそれがポロッと口から出ると言う話ではなく、きちんと1回1回心を込めて言ってくれるので、マメだなあ、とも感じていた。 「ん、久遠、セックスは?」 呼吸が落ち着いた義人は全身で藤崎の体温を感じながら問うた。 太ももに当たっている彼の勃起した性器に焦ったさを感じたのだ。 「んー、疲れてない?」 「疲れてない。ヤる。これ取れ。お前のちんこ挿れろ」 「ふはっ、挑発的。そういうところも好き」 軽く義人の唇にキスをすると、藤崎は上機嫌に身体を起こし、義人の上から退いて開かれた脚の間を見る。 まだそこにはずっぽりとバイブがハマっていた。 「取るよ。痛かったら言って」 「ん、、んー、、」 玉袋に通していた輪っかを外し、次に本体を掴む。 電源は消えているので角の部分にはもう何の光も灯っていなかった。 藤崎は左手でバイブの根元を持ち、右手で義人の尻の穴を少し広げ、ゆっくりとそれを引き抜いていく。 「んっ、」 「あれ、引っかかった」 ぬぬぬ、と途中までは静かに動いて出て来たが、やはり先端の膨らんだ部分は穴の入り口に引っかかってしまってなかなか出てこない。 (痛そうだな) 義人の身体を傷つけたくないあまり、藤崎はそこからバイブを動かせなくなってしまった。 かろうじて、潤滑ゼリーを足したら滑りが良くなってちゅるんっと出てくるだろうか、と考え、ボトルに手を伸ばす。 「やる」 「え」 こう言うところが下手に男前でドキドキしてしまう。 義人はベッドの上で起き上がると、自分の穴に繋がっている黒く少しゴツいバイブに手を伸ばし、脚を開いてそれを掴むと、グンッと力を込めて引き抜きにかかる。 「義人、傷付けないでよっ!?」 「お前、なあっ!大体、俺の尻にこんなもん挿れた、の、んんうっ!」 ずぽっ 勢いよくバイブが抜けた。 どうやらツルンと出てくる角度があるらしい。 「はあっ、はあっ、、ん、こんなもん挿れたのお前だぞ!?」 抜けるとき少し痛かった。 義人は眉間に皺を寄せて怒った顔を藤崎に見せつつ、性器に引っかかっている輪っかも外し、まだ潤滑ゼリーをまとって濡れているバイブをシートの上にドシ、と置いた。 「ごめーん、でもめっちゃ可愛かったよ」 「反省してねえなっ!?」 そう言うなり、義人はそそり立った藤崎のそれを右手で掴む。 「あはは、ヤル気満々。でもさあ、あと1回イかないとハメてあげられないの思い出しちゃった」 「ッ!、いやだ、お前の挿れんの!!」 「義人、ゴムしてないから待って」 ギンギンに勃ち上がっているくせに、藤崎は余裕の表情を浮かべていて尚且つ冷静だ。 義人はそれが気に入らず口を尖らせながらも、ベッドの上にあぐらをかいた藤崎を跨いでいく。 箱の中からコンドームの入った正方形の袋が取り出される。 「久遠。ゴム、口で、」 「また今度ね?」 「、、お前、ホントは余裕ないだろ」 いつもなら「じゃあお口でして?」と言ってくるところを拒絶され、何かおかしいなと藤崎の顔を覗き込む。 割と表情に出やすい彼は、ゴムの袋がなかなか破けないのに少し焦りつつ、弱ったようにへにゃ、と笑ってみせた。 「義人がこんなに可愛いのに、余裕あるわけないでしょ。さっきから散々煽って来てるの佐藤くんですよ?」 そんなひと言に反応して、義人は先程バイブを見たときよりもキツくギュンッと尻の穴が締まるのが分かった。 (久遠、可愛い) いつも澄ましていて格好の良い彼の焦る姿を見て、義人は堪らくなってくる。 藤崎の太ももの上に座ると、彼がやっと破いた黒い小さなビニールの袋から取り出したゴムを自分の性器に被せていく様を一緒になって見下ろした。 「っ、着けた?」 「ごめん、ちょっと待って。そんなに見られてると緊張しちゃうんだけど」 「早くしろよ、乾くだろ、、」 昂りと焦燥が隠しきれず、藤崎は珍しく手が震えている。 それすら可愛く思えて、義人はすぐそこに転がっていた潤滑ゼリーのボトルを拾い上げると、藤崎に跨ったままシーツに膝をついて膝立ちし、ボトルの中身を右手にトロンと垂らした。 「あ、ダメだよ、俺がやるからっ」 「早くゴム着けろ。俺がやるから、すぐ挿れんの」 義人はゼリーを馴染ませた手を後ろに回し、倒れないように左手は藤崎の肩に置いた。 「ンッ」 「あー、ダメ、ちょ、俺がしたかったのに、、」 ゴムをやっと着け終わった藤崎は、義人の尻を覗き込む。 ちょうど、つぷん、と指が入ったところだった。 「ぁ、、ん、、ぁ、う、ん」 「義人、俺がやる、ねえ」 「うるさい」 面倒になったのか、義人はしばらくすると穴から指を抜き、ボトルを拾い上げて窄まった口をそのまま尻の穴に入れた。 「んっ!」 「あっ、ズボラしない、こら」 「んんっ、入った、あっ」 ボトルを握ると、冷たいとろみのあるゼリーが口から穴の中へゆっくりと入ってくるのが分かる。 これくらいだろうと言う量が入ったところでヂュポッと引き抜き、「んあっ」と小さく声を漏らして反応しながらも、義人は藤崎を見下ろした。 「も、挿れられる」 切なそうに細められた視線に、藤崎は息を飲んだ。 「んん、可愛いけど、次は俺がするからね?」 「分かったから、早くしろ」 「ん。おいで」 ボトルをバイブが乗っているペット用のシートの上に投げる。 ビニール袋から出した新しいシートを広げて、多分液体が垂れるだろうあぐらをかいた自分の下にそれを忍ばせると、藤崎は義人を見上げて腰を下ろさせる。 「潮吹き、癖になってきちゃったかな?」 自分の性器を左手で持って構えながら、藤崎は義人の頬を優しく撫でる。 至近距離にいるからか、シュルシュルと言う肌と肌が擦れる音が小さく聞こえた。 それが終わると髪を拭くときに使ったフェイスタオルへ手を伸ばし、引きずり寄せて、義人の胸やら腹にかかっている液体を丁寧に拭き取った。 「挿れる、」 義人は藤崎の手を退けて彼の性器に触れると、腰を落として自分の穴を探し、そこに宛てがう。 やっと彼とセックスできると思うと胸の内がトクン、トクン、と静かに早く鼓動していた。 「できる?」 耳元で低く優しい声がして思わずぶるっと身体が震え、義人は藤崎の目を一瞬だけ見つめてからすぐに自分の脚の間へと視線を戻した。 「ん、やる、から、、見てて、んっ」 「分かった。ゆっくりね」 藤崎は少しのけぞって座ったままベッドのシーツに後ろでに手をつき、義人が懸命に自分のそれを穴に挿れる様を見つめる。 膝立ちしている脚がカタカタと震えていて、上手く入らないのか「んっ」とたまに悔しげな声をあげている。 「義人、ゆっくり」 太ももを撫でられ、肌がざわついて義人は目を閉じた。 「は、入んない」 「俺がやる?」 「ごめ、」 「謝んないでいいんだよ、こんなことで」 身体を起こして義人の腰へ腕を巻き付けると、藤崎は彼の胸元にキスを落として落ち着かせた。 ゆっくり腰を落とさせながら性器を穴の入り口の前に立たせると、何度かそこを擦る。 「あっんっ」 にちゃ、にちゃ、とゼリーとゴムの擦れる音が響く。 「腰落として」 「あ、ぁあっ、はい、るっ」 「うん、俺のこと中に挿れて」 「ん、久遠っ、はあっ、あっ」 ずぷん、とやっとそれが中に入った。

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