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第55話「波紋」

「あっという間だったね」 「んー、ちょっと寂しいな」 「来年も来る?就職先決まったらだけど。あ、春休みに海外もありだね」 「海外いいなあ」 嬉しそうに笑う義人を見つめて、藤崎も口元を緩めた。 1日目、夜中の3時から結局2人は外に出て初めての野外での立ちバックでのセックスに勤しんだ。 もうかなり遅かった事もあり、両隣の壁の向こうは静まり返っていて、2人きりでパンッパンッと肌をぶつける音を響かせ、今度は声が漏れないようにお互いに気をつけながらの行為だった。 「んっんっ、んふっ、んっ!」 「可愛い、義人、可愛い」 「やめて、声、ぁんっ、漏れる、あっ」 耳元で仕切りに「可愛い」「好きだ」と呟かれ、声が我慢できなくなった義人は身体を捻って藤崎へ振り向き、キスをして口を塞いでもらいながら手をついていた壁に向かって射精した。 (か、海外では外でセックスするのはやめよ、、) 1日目の夜の事を思い出し、義人は顔を真っ赤にしながら俯いてそう決意した。 2日目の夜もオモチャを使われ、今度はもうひとつのシンプルな作りの方のバイブを後ろの穴に挿れられた。 1日目の夜に挿れられた方にもついている機能らしいのだが、尻の中に入れるL字の先端部分にローターではなく前立腺をゴリゴリと引っ掻くようにリフトアップ、首振りする機能もあったらしく、2日目のバイブでは主にローター機能ではなくリフトアップ機能の方が使われて、例の如く義人は悶絶して気絶しかけた。 また性器をつぶつぶ内蔵のオナホで扱かれ、乳首に電マを当てられて泣き叫んだ結果、4回それで無理矢理に絶頂させられた。 その後は藤崎の性器を穴にハメられて、やたらとゆっくりとしたスローセックスをして、まさかとは思ったがお漏らしさせられて恥ずかしさでまた泣いた。 ペット用シートはこの為か、と良かったような悪かったような微妙なありがさを感じる羽目になったが、ベッドが無傷で済んだので良しとしよう。 そんな姿を見ても性器を勃起させて興奮し、全部好きだと言ってくる藤崎も藤崎だったが、気持ち良いと思ってしまった自分も少し病気じみて来た気がしてならない。 「義人」 「ん?」 「今日の夜も、バイブ使っていい?」 「えっ」 「どっちが良かった?1日目に使ったバイブくんか、2日目に使ったバイブさんか」 「名前つけんな」 8月12日。 今日は2泊3日の旅行の最終日で、2人が東京へ帰る日だった。 3日目ものんびりと島の雰囲気を味わおうと、レンタカーで辺りを見て回りながら朝からモーニングを食べに出掛けていた。 既にホテルはチェックアウトしてある。 無論、大量のペット用シートを捨てた以外には迷惑はかけていない筈だ。 「どっちがいい?」 藤崎は上機嫌に運転しながら、車を海の横の道を走らせている。 「、、バイブくん」 「気に入ったの?」 「、、形がお前のに似てる」 「義人、、」 「感動すんなバカ」 ふっふっと笑って義人は藤崎を見つめた。 横顔が美しい。 きっとレオン譲りなのだろう高い鼻は鼻筋が通っていて美しいラインで、唇は薄くて、顎がクッと引かれていて、漫画やアニメで見るような理想の横顔そのままだ。 ミルクティベージュに染まった浅い色の髪が冷房の風に当たって揺れていて、CDのジャケットに出来そうな光景だった。 「、、来年もどっか行こ」 「うん、もちろん。2人で行こうね」 「うん」 里音、滝野、光緒にぐちゃぐちゃと付き纏われるのがいやらしく、藤崎はわざと「2人で」という言葉を入れた。 その含んだ今まで汲み取ってクスクス笑うと、そろそろ昼飯を食べるために目指していた店が見えてくる辺りだった。 「、、、」 何故義昭に義人の事を話してしまったのか、と、咲恵はそればかりを考えていた。 大体にしてどうして検索履歴の欄を消そうまで思い至らなかったのだろう。 昨夜は結局昭一郎を部屋に戻し、夫婦2人でリビングで話し合いになり、義昭に質問攻めされ、義人のことを昭一郎から聞いた限り話してしまった。 『あいつは今、藤崎くんて言う男の子と一緒に住んでなかったか。まさかその子か』 そこまでは分からない。 義人は大学1年のときに気の合う友達ができたからルームシェアしたいと言ってきて、咲恵が後押ししてこの家から出て行った。 未だに2階の昭一郎の部屋の隣には義人の部屋があるけれど、本人が帰ってくるときは格段に減った。 入るなとは言われていないので、咲恵は家中を掃除するときはもちろん義人の部屋に入る。 この一件が起こってから、もしかしたらそう言う類の本や日記が出てくるのでは、と探してみたけれどこれと言って何もなかった。 「、、、」 ルームシェアしている「藤崎くん」の話しは少しだけしてくれた事があったが、外見も知らなければ下の名前も知らない。 家賃のことを向こうの親御さんと話したいと言ったときも、もう大人だから自分達で決めさせて欲しいとしか言われず交流はなかった。 もし「藤崎くん」がキスの相手なら、と咲恵はゴクンと唾を飲んだ。 (巻き込んだのは、どっちなのかしら) 義人から手を出していたら、どうしよう。 他所の子供を同性愛の道に引き摺り込んだのが義人だとしたら。 ただの友達だと思っていた相手に何かされたとあっては、向こうの親も黙っていないかもしれない。 「はあ、、」 様々な「最悪」が頭の中を駆け巡っていく。 それはグルグルとうるさく、頭の中で洗濯機を回しているような有り様だった。 また日勤の義昭は、20時頃に帰宅するだろう。 昨日一旦は寝たものの、今日帰って来たらまた話し合いだと言われている。 「、、、」 『俺、大丈夫だよ』 その言葉を言ったとき、本当は何て言いたかったの? 咲恵の頭にこびりついて離れない記憶が、また胸を締め付けてくる。

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