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第56話「帰宅」

8月12日、午後22時49分。 久しぶりに家に帰って来た2人は、荷解きは後にして軽くシャワーを浴び、すぐに寝る支度をした。 明日からの予定は特にない。 ただ、お盆期間なので藤崎はお土産を持って一度実家に帰らなければならない。 まだ日にちは決めていないけれど。 「バイブくん、、」 「荷解き明日。今日はやっぱバイブくんなし!」 「ええーっ、、」 明らかにガックリした藤崎が義人を振り返ったが、彼は腕を組んで仁王立ちして寝室のドアの前にいる。 今夜のセックスの為にバイブだけでも中から取り出したかった藤崎は納得がいかないのか、チラ、チラ、とリビングの隅に置いたキャリーケースを横目で眺めてアピールしてくる。 「寝る」 しかし、義人はもう寝るスイッチが入ってしまっていた。 「セックスは?」 「寝ーる」 「義人〜」 呆れたような照れたような顔をしながら寝室のドアを開け、携帯電話を片手に持ったまま中に入っていく義人の背中を追い、藤崎も入っていく。 東京の夏は相変わらず蒸し暑く、ジメジメしていてどこかから嫌な匂いがしそうだった。 旅行終わりの浮ついた気持ちのまま、義人はぼふんとベッドに横になりコンセントに挿した充電器を携帯電話の尻にプチッと入れる。 充電は15%ほどだけ残っていた。 「今日のセックスは?楽しみにしてたんだよ?」 「お前本当に体力馬鹿だよな。俺もう眠いんだけど」 「朝までシようよ」 「旅行中ずっと明け方までしてたよ」 「帰ってきて寝るまでが旅行!!まだ旅行の内!!」 「無理あるよなそれ!!」 ギャン!!と吠え返したのだが藤崎は寝室から出て行って、どうにもキャリーケースを開こうとガサゴソと音を立てている。 義人は呆れ返ってタオルケットに包まると、仰向けになって携帯電話の画面をつけた。 「、、あれ」 義人が連絡用アプリで連絡を取るのは弟の昭一郎くらいで、母と父とはメールでやり取りをしている。 通知を切っている彼からすればどちらかから連絡が来ていても気付きにくいのだ。 [義人へ。お盆は帰って来なさい。家族で墓掃除に行きます。] それは珍しく、父親からのメールだった。 (お父さん、?珍しいな) 帰る気がなかった義人からすると少し嫌な連絡だったが、父に帰ってこいと言われるのは少し嬉しい。 (なんか話すことあるかな。友達と沖縄行ったーとか言ってみようかな) 「了解しました」と堅い返事を返しておく。 義人と義昭は反りが合わない事が多いが、嫌いあっている訳ではない。 特に義人としては義昭への申し訳なさもある。 医者になるよう期待されていた身であり、自分もそれを疑わずに育って来た。 本当は小さい頃から絵を描く事や何かを作る事が好きだった為、将来は医者と紙芝居屋さんになると言ったり、積み木屋さんになるといったりしていた程だ。 遅くにできた子供だった為、あまりに膨らみ過ぎた期待を押し付けられ、結局頭脳が追いつかなくなって挫折したが、それも半分は医者ではなく何かを作る人間になりたいと言う想いがあってこその進路変更だった。 自分を信じていた父親からすれば、それは裏切りとも感じられただろう。 彼自身、期待に沿えなかった事は申し訳ないとは思っている。 その辺から随分気まずい関係になってしまってはいるが、帰ったときには近況は話している。 義昭の機嫌が良く、親戚の話しや病院の話しさえなければ、2人はごく普通の親子なのだ。 「どしたの?何か嬉しそう」 「んー?お父さんがさ、お盆帰ってこいって、うぉおッ!?」 「あは」 寝返りを打ち、うつ伏せになってメールを眺めていた義人のぷりんと上を向いた尻の割れ目に何かが挟まり、急にヴィイイッと振動し始める。 ビクンッと身体を揺らしながらも携帯電話を投げ捨てて尻に挟まったものを振り払って振り向くと、藤崎はベッドに上がり、手に持ったバイブくんを見せつけて来た。 「なっなっ、何すんだよッ!!」 「なにってセックスすんだよ」 「ぎゃあッ!?」 今夜のセックスを一度断られている藤崎はギラギラした目で義人を見下ろし、容赦なく彼の履いているスウェットに手をかけ引き摺り下ろしてくる。 「バカ!!変態!!強姦魔!!」 「何てこと言うの愛しの彼氏に!!」 「じゃあ離せよ今日はしない!!」 「いーやーだ!!俺もうこんななの!!」 「何で勃ってんだよ!!知らねえよ!!」 もこっと膨れたスウェットの股間を見せつけられ、義人は思わず藤崎に向かって枕を投げ付ける。 グイッとスウェットのズボンをたくし上げた。 バフンッと顔に当たったそれをもろともせず、藤崎はギャンギャン騒ぐ義人に跨り、両腕を掴んでシーツに押し付け、体重をかけて逃げられないように捕獲した。 「無理矢理は良くない!!」 「無理矢理じゃない!義人だってセックスしたいでしょ!?違うの!?」 「さっきから眠いって言ってんだろ!」 バタバタを足を暴れさせるが、太ももの上に乗られているせいでシーツに踵が落ちるだけだ。 「今日はっ、休みにしようって、な?」 暴れる事が無意味だと分かると、義人は不安げな表情で藤崎を見上げて少し可愛い声で言ってみる。 「くっ、」と小さく低い声が聞こえたような気がしたが、見つめている先の藤崎は一向に退こうとはしていない。 「かっ、可愛い顔してもダメ」 「効果絶大だな、、久遠、寝よ?」 「ダメ。そんな顔するからめっちゃ勃ったじゃん」 「え?う、っわあ」 思わず視線を下げると、確かに自分の股間の上にある藤崎の股間はテントどころではない程にスウェットを持ち上げてしまっている。 (お、大きさが良く分かる) 義人はそれ見てしまった瞬間、ゴク、と唾を飲み込んだ。 (ダメだ〜〜旅行中のバイブ込みのセックスが結構気持ち良くて、いや、かなり、良くて、頭回らなくなって来た、、早く寝ないと本当に朝までコースだ、) ずくん、ずくん、と腰の奥が疼き始める。 フイ、とそこから視線を逸らし、藤崎とも目を合わさずに義人は寝室の入り口の隣にある棚の上の時計を見つめる。 23時を回っていた。 「早くしまえ、それ。ホントに寝たいんだよ」 「、、そっか」 「ぇ」 明らかにしゅんとした声に思わず藤崎を見上げると、散歩を断られた大型犬のような顔で自分の上から降りていく彼が見えた。 そのままクーラーをつけて冷房を入れ、リモコンで2時間後に切れるようにタイマーをセットすると、そそくさと義人の隣に寝転がり、照明のリモコンで寝室の電気を消してから、義人の腕をギュッと両手で抱えて目を閉じてしまった。 「、、藤崎?」 「おやすみ、佐藤くん。大好きだよ」 「お、おお、」 義人が顔を覗き込んでも無反応。 バイブは足元のシーツの上にポツンと置いてけぼりを喰らっている。 すぐそこの目を閉じた美しい顔を眺めながら、義人は悶々とし出してしまった。 (何だよ、マジで眠いから言ってんのに、そんな拗ねるなよ) ムカついて寝られないと言うよりかは、先程見てしまった藤崎の勃起した股間に誘発されてムラムラしている義人。 もぞ、と脚を擦り合わせて、自分の脚の間が少し勃ち上がっているのを治まらせようとしている。 だが既に、藤崎の拗ねた態度が可愛らしく思えて、後ろの穴もきゅうっと反応してしまっていた。 「、、久遠?」 抱え込まれた左腕を動かさないようにしながら、暗い部屋の中でもぞもぞと左向きに身体を倒す。 「なあに」 すぐに返事をしてくれるものの、目を開けてくれない辺り、どうやら義人から誘ってくるのを藤崎は待っているようだ。 「久遠、好き」 「俺も大好き」 まだ目は開かない。 「久遠」 段々と物欲しそうな声に変わって来ているのが、自分でも分かった。 「どうしたの。寝ないの」 あくまで優しい声なのに、やはり意地が悪い。 義人は動かせる右手で目を閉じたままの美しい藤崎の顔に触れ、頬を撫でて、口元を寄せ、唇が触れるか触れないかと言う距離で、彼の口元に吐息をかけながら喋る。 「久遠」 「ん、、」 唇にかかる義人の吐息に反応したのか、ぴく、と藤崎の瞼が動いた。 「久遠、欲しい」 ちゅ、と一瞬だけのキスをする。 「久遠、セックスして。したくなった、なあ、」 「さっきしないって言ったじゃん」 うっすら瞼を開けた藤崎は、愛しそうに彼を見つめた。 とろんとした顔で、物欲しそうな表情で自分を誘惑してくる義人に、見惚れるように。 「しねーの、、?」 スルスル、とTシャツの裾をたくし上げ、義人はピン、と膨れた乳首を藤崎の目の前に曝け出す。 これは随分前に覚えた拗ねた藤崎を黙らせる必殺技だった。 (あー、もう、我慢しようって思って来たところだったのに) 見せつけられた美味しそうな突起に目を奪われると、落ち着きかけていた藤崎の股間がまた熱くなり始める。 股間がイラついている、と言う表現がぴったりだ。 「義人、」 「乳首、吸って」 「っ、、どこでそう言うの覚えて来ちゃうの?」 「久遠の好みだろ。久遠に教え込まれたんだよ」 「吸って、いいの?」 既にべろん、と舌を出して、あと数ミリで乳首に当たると言うところで藤崎は義人を見上げる。 彼の熱のこもった息が乳首にかかり、義人はまた脚を擦り合わせていた。 「吸って。俺とセックスしよ」 自分から胸元を藤崎に近づけ、乳首を舌に押し付ける。 れろ、といやらしい動きで藤崎の舌がその突起を優しく舐め上げた。 「っん、ふ、」 「可愛い、義人。好きだ」 「ぁ、ンッ」 そしてまた、朝までこの調子なのだろう。

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