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第2話

入社してすぐの頃、新人歓迎会で飲めないお酒を限界寸前まで飲まされて、隆也は意識が朦朧としていた。 呂律も回らず焦点もあっていないことから、先輩である金本が、見兼ねて隆也を店を出てすぐの路地裏へと連れ出してくれた。 「おい、大丈夫か?」 「らいりょうぶれす…」 「飲めないならそう言えばいいのに…」 「けろ…ばのくうきは、みらせないから…」 「ったく…」 今にも逆流しそうな隆也の背中を、なんだかんだ言いながら摩ってくれている。 そう、ここまではいい先輩だった… この時までは… 次の日からだった。 金本の態度が急変したのは… やたら隆也との距離が近くなった気がしてならない。仕事は必ずペアを組まされるし、二人きりになることも多かった。 聞きたいことがあって「金本さん」と近づくと、グッと身体が近づいてきて、今にも顔がくっつきそうなくらいだ。 手だって何度も触れてくる。 おかしいと感じながらも、隆也なりに距離は取っているつもりだった。 「結木、この資料探してきてくんない?」 「あっ、わかりました」 金本さんに仕事で使う資料を探してくるように言われ、隆也は一人で資料室へと向かう。 ここは、滅多に人が来ない。 しばらく資料を探していると、一番奥の上から二段目の棚に目的の本があった。 「あった!」 見つけたものの、手を伸ばすだけじゃ届かず、背伸びをして更に腕を伸ばす。 「うーん…」 キツい体勢が続いている中、いきなり隆也の身体が後ろからすっぽりと被された。 「うわっ!」 ビックリして振り返ろうとしても、振り返る隙さえない。 固定された身体は動かない… 「ここだったら、誰も来ないだろ?」 この声…金本さんだ… 怖い… 動けない… 「やっと二人きりだ」 スーッと腰へと手が回ってきて、スーツのジャケットの中へと入り込み、シャツの上から身体をまさぐられる。 「ちょっ…金本さん…」 「いいじゃん…お前もこうしたかったんだろ?」 「そんなわけ…ないじゃないですか…」 「嘘ばっか…あの歓迎会から俺たちは…」 「歓迎会…?」 「お前が抱きついてきたから…俺はてっきり…」 「僕は…酔ってて…」 「はっ? ふざけんなよ! 人をその気にさせといて!」 グイッと身体を回転させられ向かい合わせになると、本棚に押し付けられたまま思いきり体を押される。 「痛いです…」 「せっかくだし、勘違いだったとしても誘ったのはそっちだし」 「そんな…僕は…」 「勿体ぶんなくてもいいじゃん…だろ?」 そう言って、金本の手がシャツの中へと入ってきた。 「金本さん…本当にやめて下さい…」 「無理…」 顔が近づいてきてもうすぐ唇に触れそうな距離に、隆也は顔を逸らしてギュッと目を閉じた。 「金本、何してる?」 「部長…どうしてここに?」 「ちょっと調べたいことがあったから。結木、手伝ってもらえるか?」 「は、はい」 「金本、悪いけど結木を連れて行くぞ」 「ど、どうぞ」 「それから、こいつには二度と手を出すな」 「俺は別に…」 「いいな? 解ったなら早くここから消えろ」 晃成の言葉で、金本はすぐに二人の前から去って行った。 隆也は、『助かった…』という安堵感と『どうして部長がここに…?』という感情が同時に押し寄せてくる。 「服、ちゃんと直せ」 「あっ…すいません」 晃成に言われて自分の服が乱れていることに気付かされた。 服を直しながら、さっきの出来事が頭をチラつく。 まだ身体が震えてる… 「もうすぐ昼休みだし、ちょっと付き合ってもらえる?」 「あの、調べものは?」 「ほらっ、行くぞ」 晃成はそう告げると、静かに前を向いて歩き出し、隆也はその少し後ろから追いかけて行った。

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