2 / 11
第2話
入社してすぐの頃、新人歓迎会で飲めないお酒を限界寸前まで飲まされて、隆也は意識が朦朧としていた。
呂律も回らず焦点もあっていないことから、先輩である金本が、見兼ねて隆也を店を出てすぐの路地裏へと連れ出してくれた。
「おい、大丈夫か?」
「らいりょうぶれす…」
「飲めないならそう言えばいいのに…」
「けろ…ばのくうきは、みらせないから…」
「ったく…」
今にも逆流しそうな隆也の背中を、なんだかんだ言いながら摩ってくれている。
そう、ここまではいい先輩だった…
この時までは…
次の日からだった。
金本の態度が急変したのは…
やたら隆也との距離が近くなった気がしてならない。仕事は必ずペアを組まされるし、二人きりになることも多かった。
聞きたいことがあって「金本さん」と近づくと、グッと身体が近づいてきて、今にも顔がくっつきそうなくらいだ。
手だって何度も触れてくる。
おかしいと感じながらも、隆也なりに距離は取っているつもりだった。
「結木、この資料探してきてくんない?」
「あっ、わかりました」
金本さんに仕事で使う資料を探してくるように言われ、隆也は一人で資料室へと向かう。
ここは、滅多に人が来ない。
しばらく資料を探していると、一番奥の上から二段目の棚に目的の本があった。
「あった!」
見つけたものの、手を伸ばすだけじゃ届かず、背伸びをして更に腕を伸ばす。
「うーん…」
キツい体勢が続いている中、いきなり隆也の身体が後ろからすっぽりと被された。
「うわっ!」
ビックリして振り返ろうとしても、振り返る隙さえない。
固定された身体は動かない…
「ここだったら、誰も来ないだろ?」
この声…金本さんだ…
怖い…
動けない…
「やっと二人きりだ」
スーッと腰へと手が回ってきて、スーツのジャケットの中へと入り込み、シャツの上から身体をまさぐられる。
「ちょっ…金本さん…」
「いいじゃん…お前もこうしたかったんだろ?」
「そんなわけ…ないじゃないですか…」
「嘘ばっか…あの歓迎会から俺たちは…」
「歓迎会…?」
「お前が抱きついてきたから…俺はてっきり…」
「僕は…酔ってて…」
「はっ? ふざけんなよ! 人をその気にさせといて!」
グイッと身体を回転させられ向かい合わせになると、本棚に押し付けられたまま思いきり体を押される。
「痛いです…」
「せっかくだし、勘違いだったとしても誘ったのはそっちだし」
「そんな…僕は…」
「勿体ぶんなくてもいいじゃん…だろ?」
そう言って、金本の手がシャツの中へと入ってきた。
「金本さん…本当にやめて下さい…」
「無理…」
顔が近づいてきてもうすぐ唇に触れそうな距離に、隆也は顔を逸らしてギュッと目を閉じた。
「金本、何してる?」
「部長…どうしてここに?」
「ちょっと調べたいことがあったから。結木、手伝ってもらえるか?」
「は、はい」
「金本、悪いけど結木を連れて行くぞ」
「ど、どうぞ」
「それから、こいつには二度と手を出すな」
「俺は別に…」
「いいな? 解ったなら早くここから消えろ」
晃成の言葉で、金本はすぐに二人の前から去って行った。
隆也は、『助かった…』という安堵感と『どうして部長がここに…?』という感情が同時に押し寄せてくる。
「服、ちゃんと直せ」
「あっ…すいません」
晃成に言われて自分の服が乱れていることに気付かされた。
服を直しながら、さっきの出来事が頭をチラつく。
まだ身体が震えてる…
「もうすぐ昼休みだし、ちょっと付き合ってもらえる?」
「あの、調べものは?」
「ほらっ、行くぞ」
晃成はそう告げると、静かに前を向いて歩き出し、隆也はその少し後ろから追いかけて行った。
ともだちにシェアしよう!