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第6話
「結木、ちょっといいか?」
「はい」
あの日以来、時々二人で一緒の時間を過ごすようになっていた。
昼休みが終わってしばらくすると、晃成が部長室から顔を覗かせ隆也が呼ばれた。
隆也はすぐに席を立ち部長室へと向かう。
ートントンー
「結木です」
「どうぞ」
「失礼します」
ドアを開けてお辞儀をすると、ドアを閉めて中へ入っていく。
「ご用件は?」
「今日の夜、空いてるか?」
「今日…ですか? あの、さっき、予定入れちゃって…」
「俺の予定より大切なの?」
「そんな…。部長はいつも突然だから…」
「じゃあ、また今度…」
晃成からの誘いに胸がキュッとする。忙しい人だからなかなか時間が合わなくて会えるのはいつも突然だ。それでも会いたい隆也はなるべく予定を入れないようにしてきた。いつ晃成から誘われても大丈夫なように友達からどんなに誘われても断ってきた。
だけど、さすがに誘いを断り続けるのも申し訳ないと思い、ついさっき久しぶりに友達の誘いにOKの返事をしたところだった。
それなのに、隆也には晃成は案外あっさり「また今度…」と言ったように感じてしまう。
今度っていつ?
時々二人で一緒に過ごしているっていっても、僕が会いたい時にあなたはいつだって予定がある。
僕だって、いつも都合がいいわけじゃない。
友達との予定だってある。
だけど一緒にいたいのは、他の誰でもないあなただから…
「何時まで一緒にいれますか?」
「日付が変わるまで」
「じゃあ、21時までには連絡します」
「わかった」
本当はすぐにでも友達との約束を断って、晃成と過ごしたい。
でも、それはできないとわかっている。先約は友達だからだ。
「それじゃあ、失礼します」
「また後で」
「はい」
後ろ髪を引かれる思いで、隆也は部長室を後にする。
何てタイミングなんだろう。もう少し待っていれば良かったと頭を過るけど、振り払うかのように首を左右に振ると、何とか気持ちを切り替えて作業に戻った。
待ち合わせは、いつもの居酒屋だった。
仕事を早めに切り上げて、友達より早く店についた隆也は、店員さんにお冷をお願いして、かれこれ一時間も待ちぼうけを喰らっている。
時計の針は、夜の20時を回っていた。
「隆也! 悪い!」
「仕事?」
「そっ、なかなか終わんなくてさ」
「いいよ。ただ、今日はそんなに長く付き合えないんだけど、大丈夫?」
「何言ってんだよ。久々なんだから、付き合え」
「無理だよ。予定あるし」
「冷たいな。聞いて欲しいこといっぱいあるんだって」
「それでも無理」
「何だよ、女でも出来た?」
「そんなんじゃないけど…」
嘘じゃない。
彼女は出来ていない。
ただ、好きな人が出来ただけ。
「じゃあ、いいじゃん。付き合えって」
「ダーメ!」
「っんだよ、冷てーな」
「ゴメンってば。そのかわり、帰るまではちゃんと話聞くから」
「よし、じゃあ飲むぞー」
勢いよく始まった二人飲み会。
どうやら、目の前の高岡弘樹は週末に彼女と別れたらしく、ひたすら彼女との思い出話を聞かされている。
その間にもどんどん時間は過ぎていく…
「弘樹、悪いけどそろそろ…」
「っだよ、冷てぇーな!」
「そんなこと言われても…」
「じゃあ、これ一気したら帰ってもいいぞ」
そう言って差し出されたのは、この店で一番キツイであろう日本酒のロックだ。
タプタプに注がれているそれを溢れないように持つと、隆也は一気に流し込む。
「お、おい。隆也!」
当たり前のように、隆也はそのまま記憶がなくなった。
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