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第7話
心地良い匂いがする…
僕の大好きな匂い…
スーッと鼻から匂いを吸い込む…
痛い…
ズキンとする頭の奥の痛みに、思わず体を縮こませた。
「うーん…」
茹だるように体を回転させた隆也の目に映ったものは…
「部長…?」
まさか…
昨日は、早く帰りたい一心で無理やり日本酒を流し込んだところまでは覚えているけど、その先の記憶は一切ない。
晃成と一緒に過ごしたいと思っていたはずなのに、願いは叶わなかった。
そう思っていたけど…
隆也は重い体を動かして、もう一度確認するように目を開けた。
「なんで…?」
隆也の目の前には、テーブルに顔を伏せて眠っている晃成の姿がある。記憶を辿りたくても辿れない。
どうしてあなたがここにいるの?
今にも泣きそうな気持ちで晃成の眠っている姿を見つめていると、眠っていた晃成が静かに目を覚まして視線がぶつかった。
「起きたか?」
「はい…。あの僕…?」
「二日酔い。だろ?」
「はい…」
「だったらそのまま寝てろ。目が覚めたなら安心した」
「けど、どうして…? 日付が変わるまでしか一緒にいれないって言っていたのに…」
「放って帰れるわけないだろ? 目覚めるまではって思っていたから」
「奥さんには…?」
「大丈夫。そんなこと、お前が気にすることじゃない。俺が傍にいたいって思ったからここにいるんだ」
「そんな…だったらもっとちゃんと…」
「時間はまた作ればいい。ちゃんと作るから」
「でも…せっかくだったのに僕が台無しに…」
「大丈夫だから泣くな。帰れなくなくだろ」
距離があったはずなのに、いつの間にか晃成が隆也の横になっているベッドまで来て、優しく隆也の頬に伝う涙を拭ってくれている。
こんなことなら、弘樹にきちんと打ち明けて帰る選択をすれば良かったと今更ながらに後悔する。
こんなにも傍にいたいのに…
「ゴメンなさい…。ぼくっ、僕…」
「いいから…」
「けど…せっかく時間を作ってくれたのに…」
「泣くなって。ほらっ、離せなくなるから…」
そう言って、晃成が隆也の体を引き寄せてふわりと包み込み込んだ。
温かい…
トクン、トクン、トクン…
規則正しい鼓動が隆也へと伝わってくる。
そして晃成よりもずっと速くなっている隆也の鼓動もまた、晃成へ届いているはずだ。
好き…
今はこの優しさに甘えてもいいのかな?
隆也は、ギュッと晃成の胸元のシャツを掴んだ。
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