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第12話
そのとき保健室の扉がノックされた。三島はそっとスマートフォンの画面を消して、「はい」と返事する。扉が開く。来宮だった。蒸し暑い日なのに、制服の第一ボタンまできちんと留めている。
「せんせぇ、何、にやついてるんですか?」
いつもの獲物を爪先で遊ぶ目で三島を見てくる。それに悪い笑顔で返す。「教えてあげようか」
おいで、と手招きすると来宮は素直にちょこちょことやってきた。疑うわないところは子供だ。三島を狩れると思っている。だけれど今日狩るのは三島の方だ。
「内緒だよ」
唇に人差し指を立てて、内緒、の合図をすると、来宮は素直に、うん、と肯首する。三島はそっと来宮の無垢な左耳に口を寄せた。そして耳元で囁く。
「えっちなやつ」
ぱっと来宮の瞳孔が開いて、ぼっと頬と耳が赤くなる。余りに予想通りの反応で可愛らしい。それに免じて三島は正解を教えてあげることにした。「はい」とスワイプしてロックを外したスマートフォンの画面を見せる。先程まで開いていたコミュニケーションアプリの画面が表示された。それを見た来宮が、騙された、という顔をする。
「僕との会話じゃないですかっ」
ぷくぅと頬を膨らませる来宮に、「うん、そうだね」と笑って返す。くすくすと笑う三島に、来宮はようやくはめられたと気付いたらしい。
「せんせぇのばか、ばかっ」
軽く、何度も来宮に脛を蹴られる。これはちょっと痛い。
「ごめんってば」
初々しい反応が見たくて、と言ったらまた蹴られると思うので、三島は口にしないことにする。笑いながら謝罪の言葉を口にしてみたけれど、中々来宮に信じてもらえそうにない。何度も何度も「ばか、せんせぇのばか」と繰り返す。こんなに何度も「ばか」を連呼されるとは思わなかった。
「嫌いになった?」
ちょっと心配になって、来宮の顔色を窺う。
三島の言葉を聞いた途端、来宮はぴたりと言動を止めた。来宮の顔を覗き込んだ三島と目が合う。目元を赤くした来宮は、ちょっと涙混じりの瞳をしていて、今さら可哀想なことをした気分になる。そんな三島の気持ちなど当然来宮は推し量ることはない。ぎゅっと両手を握りしめて、真赤な顔のまま、
「好きに決まってるじゃないですかっ」
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