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第8話
繁華街の途中で声を掛けられた僕は、通りの路地を少し進んだ所にあった店に招かれた。
奥のVIPルームに案内された僕は、久しぶりに会ったその人と2人っきりになった。
「何年振りかしら?元気そうね、柊」
「お、お義母 さん…」
「あら、私のことまだ『母』と呼んでくれるのね」
この人は『お義母さん』以外の名を僕は知らない。
『お義母 さん』は、僕が中学に上がる前にあの家から出て行った。
思い出すのは、初めて義父に抱かれた時、僕の両手首を掴んで真っ赤な唇を三日月形にして微笑んでいた顔。
あの頃のお客様の何人かは、『お義母さん』が連れてきた。
「だいぶ前に柊に会いに行ったら、あの男捕まっててね。たまたま居合わせた私まで捕まりそうになって、もう散々だったわ」
『お義母さん』の話では、僕が創士様に引き取られた後、義父はまた子供を引き取って、その子供にも客の相手をさせていたそうだ。
それに耐え切れなかったその子供が学校に助けを求めたことで発覚して義父は逮捕された。
その頃には、義父は創士様から受け取ったお金を投資に使い失敗しすべてを失っていた。
そして、あの時取り交わした契約書はタバコの不始末で起きた火事で消失してしまったそうだ。
「あなたの消息を教えてもらおうにも、あの男、あと3年は出てこれないらしくて困ってたのよ。だから会えてよかったわ」
真っ赤に塗られた唇を引き上げて微笑む顔があの日と同じで背筋が凍った。
「僕はあなたに会いたくなかった」
この人の笑顔は、嫌なこと、辛いことしか思い出さない。
「そう言わないで。あなたに会いたいって言ってたお客様がいるのよ。もうすぐ来から、これでも飲んでて」
「僕、お酒は…」
「大丈夫よ。これはお酒ではないわ。特製のジュースよ」
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