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第9話
それから20分ほど経った頃。
創士様から着信が来た。
電話に出ようと通話ボタンを押そうとした時、VIPルームのカーテンが開き、『お義母さん』が1人の男性を案内した。
「意外に早くて驚いたわ」
「偶然、近くで接待があったんだよ」
「あら、大丈夫なの?」
「僕がママからの呼び出しを無視するわけないでしょう?…と言いたいところだけど、タイミング良く終わったんだ」
「ふふふっ」
話しながら入ってくる2人に僕は緊張した。
『お義母さん』が言っていた、僕に会いたい人って誰なんだろう。
「やあ、久しぶりだね柊くん。10年振り?すっかり立派な大人だね」
「えっ…?」
「あれ、忘れちゃった?あんなに君の体に夢中だった僕を」
「ぇ……あ…あ…」
「思い出した?」
思い出したくなかった。
あの頃のお客様のことなんて…。
「逢坂様……」
「正解。思い出してくれて嬉しいよ」
逢坂様は僕の隣にピッタリ寄り添うように座った。
あの時と同じ様に無遠慮に触る手は、あの時はお仕事で何とも感じなかったのに、今はすごく気持ちが悪い。
少しだけ距離を取ると、逢坂様はクスリと笑った。
「逢坂様はずっと柊に会いたがっていてね、私の店に通って下さっていたのよ」
「お義父 さんから柊くんが1億で買い取られたって聞いて驚いたよ。1億なら僕が買い取りたかったのに。…でも、また会えて良かった」
逢坂様が『お義母さん』が差し出した水割りを一口含む姿に、緊張で口の中がカラカラになっていたことに感じてジュースを一口飲む。
冷たいピンクグレープフルーツジュースが喉を通り、それが気持ちよくてゴクゴクと半分近く飲んだ。
『お義母さん』は逢坂様との再会から今日までの話をしていたけど、僕の頭には全然入って来なかった。
「10年経って柊君は益々綺麗になったね。君の成長を見届けられなかったが悔しいな。君はどんな風に育てられたの?僕に教えてくれないな?」
「お話しできるような事はありません」
「お客様は?相手してなかったの?こんなに綺麗なのに…」
「なっ…」
開けていた距離を詰めてきて不躾な質問を投げる逢坂様に、また距離を空けようとしたら手首を掴まれた。
耳元に顔を寄せ息を吹きかけられて肩を竦める。
「ところで、君を買い取った人はどこの人だい?」
「…何故?」
体を仰け反らせて逢坂様と向かい合うと、その視線に背筋が凍った。
「決まっているだろう。今の君を僕が買い取りたいんだよ。同額か、その倍で」
「な、に、を…」
言っている意味がわからない。
逢坂様が創士様から僕を買う?
背筋がゾクゾクとした寒さを感じたが、すぐお腹から全身にかけ熱くなるのを感じ視界がぼやける。
ゾワゾワするような痒いような疼きに襲われて思考がまとまらない。
「はぁ…はぁ…あれ……なにこれ?」
「ママ?」
「ふふっ、即効性の媚薬 をジュースに混ぜたの。逢坂様がいらっしゃるタイミングに合わせたのに、柊ったらなかなか飲まないからどうしようかと思ったわ」
『お義母さん』はあの時と同じ笑顔を浮かべていた。
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