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第12話
部屋の中は、生臭さの中に鉄っぽい匂いが混じった匂いが充満している。
僕の後孔からは血の赤に混じって収まりきれなかった白濁の液体がトロトロと溢れソファーを汚した。
媚薬の効果が切れて身体の疼きは治ったが、激しい行為に倦怠感に襲われた。
腕に力を入れ身体を起こすと、後ろからコポリとまた溢れた。
後ろから流れ出る感覚とその臭いによって押し寄せる吐き気を必死に堪える。
「そろそろ僕は帰るよ。今日はゴムなしで3回だったけど、久しぶりだったからチップを付けてあげるね」
きっちりスーツを身に纏った逢坂様が財布から一万円札を5枚取り出しテーブルに置いた。
僕はそれを受け取る気が起きなかった。
それを受け取ることは、この行為に合意したことになる。
「逢坂様、だいぶ激しかったようですね。フロアにまで声が聞こえてましたよ」
「ああ、ごめんね。柊君に触れるのが久しぶりで興奮してしまったよ。ママ、ソファー汚してしまったから新しいものに買い替えておいて。お金は僕に請求して良いから」
「あら、良いんですの?」
「次からはホテルか家にするよ。いろいろ楽しみたいからね」
「お店 にもちゃんと来てくださいよぉ」
「はははっ、分かってるって」
僕の目の前で2人は楽し気に言葉を交わすと、グチュグチュと音を立て濃厚なキスを5分近く交わした。
「今度は私の相手もしてくださいね」
『お義母さん』は逢坂様に移った口紅をハンカチで拭いながらそう強請った。
「分かってるよ」と逢坂様は言い、僕の目の前に戻ってきて、僕のバッグを漁って財布と携帯を取り出した。
「柊君。頭いいんだね。でも君がかつての『お客様』に抱かれたことご主人様が知ったらどうなるかな?捨てられちゃう?捨てられたら大学も通えないね」
財布の中にあった学生証を取り出した逢坂様は、それをジャケットの内ポケットにしまった。
「やめて、ください…」
「じゃあ、これに君の番号を入れて。次からこれで君を呼び出すから」
逢坂様はポケットから自分の携帯を取り出して僕に渡した。
番号なんて教えたくない。
でも、学生証取られ、そこから創士様に気付かれたら……。
「ぅわっ、すごい沢山着信が来てるよ。全部、柊君のご主人様かな?」
「っ……」
「折り返す?」
発信ボタンを押そうとしたため、携帯に僕の番号を打ち込んで発信ボタンを押す。
すぐに僕の携帯が着信を知らせ、そこに表示された番号を見た逢坂様は満足気に携帯を交換した。
「柊君、今日から君は僕の愛人だよ。僕が呼び出したら来て。あ、ご主人様にバレないようにアリバイ工作をちゃんとするんだよ」
「ーっ!」
頬を撫でられ、悍ましさにビクッと身体が跳ねた僕の姿に逢坂様は満足気に微笑むと、「じゃあ、またね」とVIPルームを出ていった。
「柊、もう閉店だから服着て出ていって」
「……」
「そのお金、全部持っていっていいわよ。この部屋の代金は逢坂様にたっぷりもらってるから。そのお金でタクシー拾うなりホテルに泊まるなりしなさいよっ」
「熱っ…」
『お義母さん』は部屋に備え付けの保温器からおしぼりを数本取って僕に投げつけた。
僕はそれで汚れを拭いて床に散乱した服を着る。
『お義母さん』はテーブルの上に置かれたお金をバッグに押し込んで僕に渡した。
「じゃあね、柊。さようなら」
外に出て携帯を開いて時間を確認すると、日付は既に変わっていて終電も終わっていた。
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