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第14話
振り返ると田村が立っていた。
その顔には一瞬、いつもの笑顔はなかった。
「おはよ、柊」
田村は何も聞いてなかったかのように僕に笑いかけた。
「お、おはよう」
「朝メシ、パンしかないけどいいか?」
「あ、うん。…でも、お構いなく」
「お構いするよ。だって、柊は俺の家に来た初めてお客様だから」
「…ありがとう」
トースターで軽く焼いた上にマーガリンを塗っただけのパンと、インスタントコーヒーを頂いた。
「昨日は夜分に押しかけて、ごめん」
改めて、昨日の件について謝罪すると、田村は呆れた顔をした。
「それ、昨日も聞いた。あと、気にすんなって昨日も俺言っただろ」
「うん。そうなんだけど……」
それでも言わずにはいられなかった。
そんな僕の眉間に田村は人差し指をグリグリ押しつけてきた。
「眉間。皺スッゲェできてる」
「そんなに?」
「ああ。頭痛くなりそうなくらい」
田村は笑うと、残りのパンとコーヒーを平らげて食器をキッチンへ持っていった。
僕も慌ててパンに齧り付く。
「ゆっくり食ってろよ。俺これから夕方までバイトだから適当に過ごしてて。腹が減ったら流しの下にカップラーメンあるからそれ食って。晩飯はなんかちゃんとしたやつ買ってくるから」
「……え?」
「今日も泊まってくんだろ?」
「…いいの?」
「構わねぇよ。あ、部屋、掃除機掛けてくれると助かるかも」
田村は財布と携帯をジーンズのポケットに入れると、振り返ってニッと笑った。
その笑顔に釣られて僕も笑ってしまった。
「分かった。片付けておく」
そう言って隅で山積みになっている雑誌や服をチラッと見る。
掃除し甲斐がありそうだ。
「あ、エロ本は捨てないでね。あと、洗濯物…」
「ふっ、やっておく」
「サンキュー。じゃあ、行ってくるわ」
手を上げて笑った田村は、出かけて行った。
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