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第20話
「はぁ」
今日、何度目かのため息を吐く。
昨日は駅まで迎えに来てくれた創士様と、ご飯を食べて帰った。
「折角外食するならいい物を食べよう」と回らないお寿司を食べた。
美味しかったはずなのに、緊張で付けすぎた醤油の味しか分からなかった。
2日も外泊した僕に、創士様は何も聞いてこなかった。
ただ……
「楽しかった?」
それだけだった。
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昨日のことを思い出していると、隣に人が座る気配がしてビクッとなる。
「柊、おはよ」
「……あ、おはよう、田村」
「ブッ、驚き過ぎ」
「ご、ごめっ……」
隣の席が空いていたのだから、誰かが座るのは当たり前だし、いつも一緒に行動する田村が来たならそこに座るのも当たり前のことなのにな。
「昨日は大丈夫だったか?叱られなかった?」
「大丈夫。駅まで迎えに来てくれて、お寿司食べて帰った」
「マジで!いーなー」
お寿司に羨ましがる田村もいつも通りだった。
悩み過ぎる僕がバカみたいに思ってしまうくらいだ。
そんなことを考えながらシャツの襟に手を伸ばすと手首を掴まれた。
「あんま触んなよ。……大丈夫だ、見えてないから」
「あ……」
小声で言った田村はいつから見ていたのだろう。
田村がそう指摘するぐらい、僕はシャツの襟を触れていたんだ。
朝もちゃんと薬を塗ってから絆創膏を貼った。
見えないようにとシャツのボタンを首元まで留めた。
それなのにひっきりなしに襟を触っていたら、逆にそこに何かあるって気付かれるのに。
創士様の前でもしてしまっただろうか不安になった。
考えただけで怖くて泣きたくなった。
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