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第25話
眠れないまま夜が明けた。
洗面台の鏡の中の僕は冴えない顔をして、瞼が少し腫れていた。
顔を洗って、濡らしたタオルと氷嚢を持って部屋に戻ると、瞼を冷やしながらこれから起こることをシミュレーションする。
創士様に悟られないよう、いつもの僕の仮面を作るんだ。
6時。
創士様の起床予定の30分前。
瞼の腫れが引いたことを確認し着替える。
昨日と違うバッグを出して、必要なものだけ入れ替える。
昨日のバッグはそのままクローゼットに押し込んだ。
バッグの中には10万円が剥き出しで入っていたが、今は触りたくない。
僕は両手で頬を叩き気合を入れて部屋を出て、朝食の準備のためキッチンへ向かった。
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「創士様、おはようございます」
「柊……ああ、おはよう」
笑顔で挨拶をするといつもの優しい笑顔が帰ってきた。
いつもの2人だけの朝食。
「昨日は飲み過ぎなかったか?」
「大丈夫です。でも、ちょっと眠くなってしまって、創士様の帰りを待てませんでした。ごめんなさい」
さっきまで頭の中でシミュレーションした通りの会話だ。
用意した言葉と笑顔で返す。
「……楽しかったか?」
これもシミュレーション通り。
なのに…。
一瞬だけ見えた創士様の眼差しに、言葉が詰まった。
その眼差しはシミュレーションにはなかったから。
「っ……はい。楽しかったです…とても」
僕はちゃんと笑えていたかな…?
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