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第30話

「クロスケ、ご飯だよー」 ご飯の器を持って声を掛けると、クロスケは「ニャア」と鳴いて僕の足に擦り寄ってきた。 僕を案内するように前を歩くクロスケからチリンチリンと鈴の音が聞こえて頬が緩む。 いつもご飯を食べるゲージの前に着くと、クロスケはちょこんと座って僕に振り返り「ニャア」とまた鳴いた。 パタンパタンと揺れる尻尾を踏まないように近づいて、クロスケの前に器を置くと、ものすごい勢いで食べ始めた。 チャッ、チャッと音を立てて食べるクロスケの様子を側で眺める。 着いて早々、クロスケは物陰に隠れてしまったが、おじいさんたちが紙袋からおもちゃやオヤツを取り出すとソロソロと近づいてきた。 「柊、このオヤツ、クロスケにあげて」 「え、はい」 渡されたスティックタイプの小袋の封を開けると、クロスケはピクンと反応して僕に近づいてきた。 切り口をクンクンとして小さな舌をぺろっと出したので、ペースト状の中身を絞り出し少し出すとペロペロと舐め始めた。 「わっ」 よほど美味しいのか、強請るように顔を突き出して僕に寄ってきた。 終いには、小袋を持つ僕の手を逃さないとばかりに前足でホールドした。 「すごいな。ペットショップの店員が勧めるだけあるな」 「はい。ここまで食いついてくるとは思いませんでした」 「ふふふっ。創士さん、この隙に、この首輪をクロスケに付けてあげて」 「あ、はい」 クロスケがオヤツに夢中になっている間に、創士様はお土産の赤い首輪をクロスケに付けた。 このオヤツのおかげで、あっという間にクロスケは僕たちに懐いてくれた。 「可愛いな」 創士様は隣に膝をついて、クロスケの食事を眺める僕に声を掛けた。 「はい。ずっと見ていられますね」 「うちでも飼うか?」 「飼ってみたい…ですが、飼い方が分かりませんし、日中、ひとりでお留守番させるのは可哀想なので、今はここでクロスケをめいいっぱい可愛がります」 「ふっ、そうか」 創士様と僕は、おばあさんに声を掛けられるまでずっとクロスケの食事姿を眺めた。

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