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第37話
創士様と僕は時間ギリギリまでゆっくり過ごしてチェックアウトした。
旅館を出る前におじいさんたちのお土産のアイスとお菓子を買った。
「あまり買うとおばあさんに叱られないか?」
「そうですよね」
そう言いつつ、クロスケに鈴が入ったボールを買った。
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帰りの車中では僕はほとんど眠ってしまって、目覚めたら家の前だった。
「楽しめたようで良かったわ。お土産もありがとう。あら、このお茶はどう淹れるのかしら?」
「僕が淹れます」
お土産のハーブティーを不思議そうに眺めるおばあさんに声をかけて、一緒にキッチンに向かった。
「あら、レモン入れてないのに香りも味もレモンなんて不思議ね」
「思ったより飲みやすいな」
僕が淹れたレモングラスのお茶を、おじいさんとおばあさんは不思議そうな顔で飲みんだけど、「美味しい」と言ってくれた。
「これ、緑茶に混ぜても美味しいらしいです」
「そうなの。じゃあ、次はいつものお茶にちょっと入れてみようかしら」
おばあさんが気に入った様子に、創士様と僕は目を合わせてふふっと笑った。
「クロスケもお土産気に入ったようだね」
おじいさんの視線の先で、クロスケは鈴入りのボールを夢中になって追いかけていた。
「良かったな、柊」
「はい」
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7日目。
「じゃあ、出来るだけ毎日電話をするよ」
創士様は車に乗り込む前に僕を抱きしめてくれた。
「はい。創士様、お気をつけて」
僕も応えるように背中に回した腕に力を込めた。
それから2日後。
「そろそろ飛行機に乗るからかしら?」
「そうですね」
おばあさんと野菜を収穫しながら見上げる空はどこまでも青く澄んでいた。
これなら飛行機もよく見えるだろうけど、創士様が乗る飛行機はここを飛ばない。
そんなことを考えているとポケットの中の携帯が鳴った。
画面を見ると創士様からだった。
「はいっ、創士様」
「ははっ、元気だな柊。これから搭乗するから電話した。これから暫く電話ができなくなるから声が聞けて良かった」
「僕も創士様の声が聞けて嬉しいです。あのっ、気を付けて行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる……」
創士様の言葉は詰まったように感じた。
何か言うのではないかと待っていると、小さなため息が聞こえた気がした。
「柊…。帰ったら、少し話がしたい」
「えっ……はい」
「じゃあ」
電話が切れた。
「創士様…?」
少しだけ不安がよぎった。
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