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第52話

逢坂様から呼び出しがあったのは先週だから、今週はないはず。 それが確定した火曜日の午後、僕は安堵のため息をついた。 この契約も、あと1ヶ月ほどで終わる。 あの苦しくて辛いだけの行為もあと数回で終わる。 そうしたら、もう創士様に嘘を付かなくていいんだ。 あと、もう少しだ……。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 金曜日。 創士様の誕生日を迎えた。 朝に「お誕生日おめでとうございます」って言ったら、「ありがとう。夜、楽しみにしてる」と触れるだけのキスをされた。 肌を触れ合い繋がるのは基本週末だけで、平日はたまに寝る前にキスをすることがあったけど、朝、こんな風にキスをされたことはなかった。 だから、心臓が止まりそうなくらい驚いた。 今日は帰ったら、家政婦さんとお祝いの準備を一緒にしようって約束をしている。 創士様の好物のビーフシチューの材料は揃えておくと言っていたから、僕は講義が終わると急いで帰宅した。 その途中、花屋で花を一本買い、ケーキ屋では予約していたケーキを受け取った。 「ただいま帰りました!」 勢いよくキッチンに入ると、いるはずの家政婦さんは居なかった。 とりあえず、ケーキを冷蔵庫に仕舞い、買ってきた花を飾るための花瓶を出していると、パタパタと此方に向かってくる足音が聞こえた。 キッチンから顔を出すと、珍しく焦った顔をした家政婦さんと鉢合わせた。 「あっ、柊さんっ。おかえりなさい」 「えと、ただいま帰りました。あの、どうかしたんですか?」 「そ、それが…」 パタン…パタ、パタ… 家政婦さんが来たと思われる方向から扉が閉まる音と足音がして顔を上げると、50代くらいの女性が近づいてきていた。 「貴方が"柊"さんね」 「あの、貴女は…?」 「奥様っ」 「……え?」 真っ赤なワンピースを纏った女性が僕を見て、ルージュを引いた真っ赤な唇の端を上げて笑った。 「お、くさま…?」 「初めまして、創士のです」 どこからか、甘く、エキゾチックな香りが漂ってきた。

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