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第53話

帰った時、なぜすぐ気が付かなかったんだろう。 玄関のドアを開けた時、家の中の空気がいつもと違ったこと。 玄関に家政婦さんが履くことのない女性物のハイヒールが2つあったことを……。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 創士様のお義母様の『奥様』について行き応接室に入る。 ドアを開ける音で、3人掛けのソファに座っていた女性がこちらに振り返った。 驚いた顔をした後、一瞬汚いものでも見るような目を向けられビクリと肩が跳ねた。 「…あら、そちらの方は?」 「沙耶華さん。こちらは創士さんが引き取った子よ」 「まあ、そうなんですか?綺麗な顔立ちの方だから、私てっきり……ふふふっ」 トゲのある言い方は、奥様の言葉で少しだけ和らいだが、「てっきり」の後に続くはずだった言葉は、きっと僕への侮蔑の言葉だろう。 奥様は僕を脇のスツールに座らせ、沙耶華さんと呼んだ方の向かいの1人掛けのソファに座った。 程なく、家政婦さんが新しい紅茶を3人分持ってきた。 「何を言われても反応してはいけませんよ」 家政婦さんはティーカップを置いた時、僕にだけ聞こえる声でそう言い、僕の後ろに控えた。 「それにしても、この家、小さくて古いですわね」 「仕方がないわ、中古で買った家らしいから。本当、見窄らしい」 沙耶華さんは埃臭いと言わんばかりにハンカチを鼻に当て、奥様は同意し紅茶に口を付けた。 「私、こんな家に住むのは嫌ですわ」 「そうねぇ。なら、もっと都心で広い土地に家を建てたらどう?」 「え…」 僕の体は固まった。 「そうですわね。父に良い物件を用意してもらいますわ」 「「ふふふっ」」 2人の会話が全く見えない。 住む? この人が? 「あ、でも、結婚したら、この方も付いてきてしまうのかしら?それじゃあ新婚気分が味わえないわ」 「大丈夫よ。この子はもう成人してるから、此処に置いていけばいいわよ」 「奥様っ」 家政婦さんの声が焦っている? この人たちは一体何を話しているの? 結婚? 誰が? 話が見えず呆然とする僕に奥様は不思議そうな顔を向けた。 「あら、何?創士さん、まだこの子に話してないの?…もう2ヶ月も経つのに」 「2ヶ月…?」 僕は益々分からなくなった。 先程、沙耶華さんと呼ばれていた女性はぷっくりとしたピンクの唇の端を上げて僕に言った。 「私、結婚するのよ。創士さんと」 「…結婚」 「沙耶華さんは創士さんの婚約者よ」 「…婚約者」 「だから、私たちが結婚したら、貴方は1人で生きてね」 沙耶華さんはニッコリ笑ってそう言った。 「え……?」

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