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第61話

※創士視点 ずっと聞きたかったことがある。 5ヶ月前。 突然、友人の家に泊まったこと。 帰ってきた身体に、俺の知らない痕が残されていたこと。 それから月に2、3度、行くようになった飲み会のこと。 帰るとすぐシャワーを浴びていたこと。 着ていた服をすぐ洗濯をしていたこと。 帰りが遅くなる時は、そのまま友人の家に泊まったこと。 充実した学生生活に見えたと思っていたのに、どんどんやつれていったこと。 そして、 週末の行為が、どんどん積極的になっていったこと。 本人が気づかない場所に、俺に見せつけるように残された印。 腕に薄ら残る針を刺した痕。 柊。 お前は何を隠している? ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 「すみません。急にお呼びだてしたうえ、こうして食事にもお付き合いくださって、ありがとうございます」 「いえ、私も家族もここ最近忙しくてゆっくり食事もできなかったので、私も良かったです」 こんな会話。 お互い、社交辞令でしかない。 それでも、この会社と一緒に仕事ができたことは今後の会社の発展の足掛かりになった。 この男はいつも急だ。 この男が呼び出すのは決まって俺。 だが、現れるのは男の秘書か部下の社員が多く、今日のように呼び出した本人が現れるのは珍しい。 よりによって、今日。 「貴方と仕事を一緒にできるのもあと少しと考えると、寂しいですね」 「御社のご協力のおかげで、弊社も新規開拓ができました」 「そう言っていだだけて、僕も嬉しいです」 カチと小さな音を立ててグラスを合わせる。 食前酒のシャンパンは冷えていて美味しい。 流石、星付きのホテルのレストランというところか。 ふと壁にかかる絵画に目を向ける。 窓の外には美しい海岸。それを窓辺に座り眺めている黒猫の後ろ姿が描かれていた。 この作者は、描く絵には必ず愛猫を入れること有名だ。 猫は描いた風景に溶け込むので、飾る場所を選ばない。 「どうかしました?」 「あの絵の猫が可愛いな、と」 俺の言葉に目の前の男も絵に目を向けた。 「ああ、可愛らしいですね。猫飼われているのですか?」 「いえ。家族が『ひとりで留守番は可哀想だ』というので、まだ…」 「ははっ」 猫の話に、目の前の男は珍しく食いついた。 そして、作り笑いではない男の笑顔が変わった。 「僕も飼いたいがいるんですよ」 「?」 「その子、飼い猫でね……。ねえ、僕に一億で売ってくれませんか?」 男の言葉に空気が凍った。 「……は?」 「ーーって、もし言われたら、貴方は売ってくれますか?」 急に笑う男。 この男の意図が読めない。 「もしーー、私がもし飼っていたら…。私なら売りません。大切な家族ですから」 「ふっ、そうですよね。不躾な質問、失礼しました」 俺の言葉に謝罪したが、逢坂は挑戦的な目で笑っていた。 「あ、そうそう。今日は、お誕生日おめでとうございます」

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