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第62話

1ヶ月だけのバイトも、残すところあと3日。 奥さんが抜けた穴は大きく、旦那さんは新しい人が入るまで平日のランチ営業を止め、お弁当販売に切り替えた。 常連さんたちが買ってくれたようで、さほど売り上げは落ちなかったそうだ。 夜は、田村ともう1人のバイトの女の子と僕で回した。 回り切らない時は、奥さんを介抱したおばさんが手伝ってくれた。 バイトの女の子は一個下で、とてもハツラツとした子だった。 おばさんは見た目通りの豪快な人で、おばさんがいる時だけは洋食屋さんというより、定食屋さんな雰囲気になった。 奥さんが退院する頃には、募集していた従業員も見つかり、来月からランチ営業を再開できるようになった。 今後のことを考えて、バイトではなく従業員を雇ったのはおばさんの助言だ。 このおばさんは何者なんだろう? ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ バイト最終日の日曜日。 「柊くん。今日までありがとう」 旦那さんから、前にいただいた時より少し厚めの封筒を頂いた。 その隣には、退院して顔色も良くなった奥さんもいた。 まだ悪阻は続いているらしいけど、安定期に入れば落ち着くと聞いてほっとした。 「今度はご家族の方と食べにきてね。たっくさんサービスするからね」 「はい。是非」 奥さんは、抜かりなく店の宣伝をした。 家に帰ると、中は静まりかえっていた。 今日は創士様も所用で出掛けると言っていたが、まだ帰ってきていないようだ。 僕は真っ直ぐ自分の部屋に向かった。 クローゼットを開け、バッグを取り出す。 最後に使ったのは5ヶ月前。 バッグの口を開けると、少し厚めの封筒ひとつと、剥き出しのお札がたくさん入っていた。 丁寧に取り出し、10枚ずつ揃えて並べる。 逢坂様は呼び出す度、僕に渡したお金だ。 折れのない綺麗なお札は捲りにくい。 すべてを並べたところに、今日貰った給料の一万円札を3枚足す。 前にタクシー代で使ってしまった分だ。 綺麗めなものを選んだけど、新札ではないので端が少し浮いていた。 机の引き出しから大きめの封筒を取り出して、それらを全て入れた。 次に会うのは明後日。 僕の答えは決まっている。 何があっても、答えは変わらない。 揺るがない。 そう思っていた。

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