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第67話
その苦しみはすぐに解放された。
目を開けると創士様の腕の中に戻っていた。
「柊を連れて帰ります。鍵を……。それと、柊の服を」
いつも違う凍りつくような低い声に、見上げることができずただ必死にしがみついた。
ふぅ、とため息と共に、ベッドが軋んだ。
「うん。今日はこの辺でやめておいた方がよさそうですね。はい、鍵です。服は別室にあるので今持ってきます」
ポケットから取り出した鍵を創士様に渡すと、逢坂様は部屋から出て行った。
「今、外す。その前に」
「やっ……あ、あ、あっ、ん……」
創士様はゆっくり玩具を取り出し、放り投げた。
ベッドの端に転がった玩具には血が付いていた。
「少し腫れるだろうから、帰ったら薬を塗ろう。それから薬を飲んでゆっくり休むんだ。体調悪いんだろう?体が熱いし、顔色も朝より悪い」
「……はい」
何事もなかったかのように、優しい口調で僕に語りかけながら着けられた首輪と枷を外してくれた。
それからすぐ、逢坂様が持ってきた僕の服を着せてくれた。
バッグも返してもらうと、創士様に支えながら玄関に向かう。
「あ、さっきの話。僕、5億でも構いませんよ。それだけ本気なんで、考えてくださいね。柊もまたね」
逢坂様は、創士様に睨まれても臆することなくニッコリ笑って僕の頬に手を伸ばすが、その手は創士様に弾かれた。
僕はバッグから封筒を取り出すと逢坂様に押し付けた。
「これ、お返しします」
「これはもう僕のものではないよ」
「僕のものでもありません」
受け取ってもらえない封筒は、手を離すとそのまま足元に落ちた。
僕はそれを拾うことはせず、創士様に支えられながら玄関を出た。
「柊、さっきのあれはーー柊っ」
エレベーターに乗り込むと創士様が僕に声を掛けてきたけど、僕にはその声はもう聞こえなかった。
僕は、創士様の胸にもたれたまま意識を失った。
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