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第69話
※創士視点
高熱で寝込む柊の額に貼られた冷却シートを取り替える。
家政婦は帰ったため、柊が眠るベッドの隣に布団を敷いて仮眠をとりつつ看病をしているが、熱は一向に下がる様子はない。
3時間前に貼り替えたたばかりなのに温くて冷却効果を感じない。
眉間に皺が寄せて苦しそうな頬に手を当てると、冷たくて気持ち良いのかその皺は少しだけ和らいだように見えた。
その寝顔を見ながら、数時間前の出来事を思い出す。
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「最後にお見せしたいものがあるんです」
そう言われて呼び出されたのは、マンションの最上階だった。
高いところを好まない俺からしたら、絶対住む気にならない所だ。
それでも相手は大事な取引先だ。
「最後に」と言われたら応じるしかない。
だが、今日だけは早く帰りたかった。
この1週間。
何度も思い詰めた表情の柊を見かけた。
俺と目が合うとニコリと笑うが、すぐに目を逸らされた。
それに、今日は顔色が悪かった。
頭痛なのか痛みに耐えるような顰めた顔を何度もしていた。
終わったらすぐ連絡をして帰ろう。
まだ出先なら迎えに行こう。
俺は最上階の一番奥の部屋のインターフォンを押した。
「いらっしゃいませ。時間ぴったりですね」
「お招きいただき、ありがとうございます。これ大したものではないのですが……」
「あ、ワインですか?嬉しいです」
酒屋の店員に選んでもらったワインを、逢坂は嬉しそうに受け取った。
「少し冷やした方が良さそうなので冷やしてきますね。あ、客間はこっちの廊下の一番奥になるので先に行ってもらっても良いですか?」
「わかりました」
この広い部屋はビジネスとプライベートで空間を分けているようで、逢坂は左に折れた廊下に進み、俺は言われた通り右に折れた廊下に進んだ。
廊下の先にはドアが3つあった。
一番手前はトイレだろうか。
逢坂に言われた通り一番奥のドアに向かう。
途中、真ん中の部屋のドアが少しだけ開いていることに気づいた。
何となく足を止めると、中から衣擦れの音と押し殺した声が漏れ聞こえる。
「あっ…くっっ」
突然大きくなった声に気になってドアを静かに開けると、家具がほとんどない部屋の中央にキングサイズのベッドがあり、その上でこんもりとした布団が蠢いていた。
喘ぎ声にも痛みを堪える声にも聞こえるその声は、抑えることができないようだ。
苦しそうな声は、聞き覚えのある声でもあった。
「あっ……いっ……ああっ」
「……大丈夫ですか?」
「っ!」
一際大きくなった声に思わず声をかけると、丸まった布団が跳ねるように動いた。
だから、つい布団を捲ってしまった。
「あの、どうされた……ぇ……」
何故……?
何故、そこにいるんだ?
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