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第71話
お医者様に頂いた薬で、喉の痛みも楽なり、熱も少しだけ下がった。
2日振りに携帯を見ると、田村から何度も連絡が来ていた。
僕は連絡ができなかったことを謝罪し、風邪を引いてしまったことと喉を痛めて声が出ないことをメールで伝えた。
それからすぐ田村から返信が来た。
『講義のノートはコピーしとくから、治ったらコーラ奢れよ』
その内容に笑ったら咳き込んでしまった。
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コンコン……
ノック音が聞こえた気がする。
首に冷んやりと気持ちよさを感じて意識が浮上した。
目を開けるとぼんやりとした視界に僕の首に手を当て覗き込む創士様の顔があった。
「……ん、柊、起こしてしまったか?」
「……」
「いいえ」と言ったつもりだが空気が漏れた音しか出なかったため頭を振った。
頭痛は治ったようで動かしてももう痛みはなかった。
「喉が腫れてて声が出ないんだってな。まだ少し熱いようだが痛むのか?」
布団から手を出して「少し」とジェスチャーをすると、「そうか」と微笑んだ。
「あ、シャーベットを買ってきたんだが今食べれそうか?まぁ、日持ちするから無理に食べなくてもいいが……」
創士様は取り出した容器をすぐ袋に戻そうとしたため手を掴んで頭を振る。
「食べるのか?」と言われて頷くと、創士様はベッドから身体を起こしてくれた。
「ほら、あーん」
シャーベットが乗ったスプーンを差し出され戸惑う僕に創士様は笑った。
自分で食べれるとスプーンを貰おうと手を伸ばしたら「ダメだ。俺が食べさせる」と渡してもらえなかった。
唇にスプーンを押しつけられ渋々口を開くと、冷んやりとした氷が口の中に入ってきてあっという間に溶けた。
溶けた氷がすぅーっと喉を通って、まだ少し痛いけど気持ちがいい。
「喉、痛くないか?」
頭を横に振ると創士様はホッとした表情をした。
そうやって少しずつ差し込まれたシャーベットを僕は完食した。
「美味しかったか?……ふっ、そうか、良かった」
何度も頷く僕に創士様は笑って頭を撫でてくれた。
「替えの氷枕持ってくるから、もう少し眠りなさい」
創士様は僕をベッドに寝かせると、温くなった氷枕を持って部屋を出て行った。
無意識に伸ばした僕の手は創士様に届かなかった。
そして、創士様が戻ってくる頃には僕はまた眠りについた。
覚えているのは、額に当たる大きくて冷んやりとした感触が気持ち良かったことだけ。
もう少しだけ一緒に居て欲しかったな……。
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