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第80話
※創士視点
柊と話をした。
俺のこと。
柊のこと。
逢坂とのことは、脅されて強要されたものとばかり思っていた。
柊は俺を裏切るなんてことはしないーーそう信じていたのに。
頷かなかった姿に突き放した。
俺に縋り付いて必死に話そうとしていたのに、もう言い訳も聞きたくなかった。
俺は、柊を信じていた俺に絶望した。
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布団に潜って目を閉じる。
逢坂のマンションの一件からずっと考えていた。
あの時、俺は逢坂の言葉に否定できなかった。
苦しそうな表情をする柊を見ると興奮すると言った逢坂。
それは俺にも心当たりがあった。
苦し気に顔を歪めながら俺を求める柊に興奮した俺は何度も中に捩じ込んだ。
結局俺も逢坂と同じ穴の狢だ。
だから柊は俺と同じ性癖を持つ逢坂を受け入れた。
そんな風に思ってしまったら眠れなくなった。
夜が明けると家を出た。
会社近くのカフェので時間を潰してから出社し、仕事が終わると何となくバーで時間を潰した。
強い酒を煽り、答えが出ない問い掛けをずっとして帰宅するころには深夜になっていた。
寝室に戻る前に柊の部屋に寄った。
今日はドアの隙間から明かりは漏れておらず、まるで中に誰もいないかのように静かだった。
スーツのまま布団に転がると数時間には携帯の着信で起こされた。
適当に着替えて電話で指定されたホテルに向かった。
「沙耶華さん。何度も言っているが貴女とは結婚できません」
頭を下げた。
何度目かなんてもう忘れた。
「うふふ、どうしたんですか?これは政略結婚ですよ。貴方の一存で破棄することはできないってわかってますよね?」
「だが、俺には大事な恋人がいるから結婚はできない。だからーー」
「創士さん、まだ酔ってらっしゃるんじゃないですか?それでおかしな夢でも見たのかしら」
婚約者とのこの手のやり取りも何回目なのか忘れた。
この女は手強い。
何を言っても揺らぐ姿を見たことがない。
「私は私の未来のためにこの縁談を受け入れ、貴方と結婚すると決めたんです」
「俺はーー」
「では、創士さんはその恋人との間に未来はあるのですか?」
「未来?」
「子供を作って次代の後継者を育てる未来です。現・後継者である貴方にはそれをする義務があるんですよ。私ならその後継者を産めますわ」
目の前で妖しく微笑む婚約者の発言に引っ掛かりを覚えた。
だが、これ以上話しても無意味だと悟った俺は伝票を掴んで立ち上がった。
「会社は別に俺が継ぐ必要はない。必要なら社員の中からトップに相応しい人間を育てればいい。それに……、何があっても俺の気持ちは変わらない。これで帰らせてもらいます」
「わかりました。では最後にひとつだけ。……創士さん、実の親にも捨てられた彼に貴方の傍にいる価値が本当にあるのですか?」
「なにを……?」
「ふふっ、次に会う時に答えを教えてくださいね。それでは私も失礼します」
そう言った婚約者は立ち去った。
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「なんだ、これ……」
家に戻ると、開け放たれた部屋から全ての家具が消えていた。
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