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第81話

※創士視点 婚約者と会った後、真っ直ぐ帰宅した。 途中、家の近くで家財を積んだトラックとすれ違った。 この辺では珍しい光景で、思わず振り返えると、家財を覆う幌の隙間から見えた机がなんとなく見覚えがある気がした。 「なんだ、これ……」 柊の部屋は家具が一切なく、もぬけの殻だった。 柊のために買った机、本棚、箪笥やベッドも、何一つなく、クローゼットを開けても中は空っぽだった。 「創士さん」 振り返ると週末は休みのはずの家政婦がいた。 家政婦について行きリビングに着いた俺はソファーに座り込んだ。 数分後、トレイにお茶を載せた家政婦が戻ってきた。 「柊は出ていったのか?」 家政婦は項垂れる俺の前にお茶を置いて「はい」と答えた。 「いつ?」 「昨日です」 「あの部屋は?」 「先程、業者の方が……」 家の近くですれ違ったトラックを思い出した。 「……そうか……」 「……手配をしたのは奥様です」 驚き頭を上げるとトレイを胸に抱き俯いていた家政婦と目が合った。 俺が知る限り、柊は義母と面識はなかった。 この家に義母がからことはなかったし、俺も柊を会わせる気がなかった。 「い、いつから……?」 「1ヶ月ほど前、沙耶華様と一緒に。昨日はおひとりでいらっしゃいました」 俺は頭を掻きむしった。 既に会っていたのだ。 婚約者にも、あの悪魔のような義母にも。 思い出すのは、男を誘うような香水の匂い。 1ヶ月前も昨日も、この家に漂っていたのか。 この家政婦が、俺のために念入りな換気をしてくれたから気付かなかった。 「昨日も今日も、私には止めることが出来ませんでした。申し訳ありません」 深々と頭を下げる家政婦に頭を振る。 この家に来るまではずっと実家で俺の家族に仕えていたのだ。 好き勝手に振る舞う義母の怖さを身に染みて理解している家政婦が逆らえるはずがない。 家政婦はリビングを出ると、少しして紙袋を持って戻ってきた。 「これを柊さんの部屋で見つけました」 渡された袋を受け取り中身を取り出すと、綺麗に包装された箱で、リボンの真ん中には『Happy Birthday』のシールが貼られていた。 家政婦に促され包装を外し箱を開けると、中にはネクタイとハンカチが入っていた。 『創士様 お誕生日おめでとうございます。これからもあなたのお傍にいさせてください。柊』 添えられたカードには見慣れた柊の字で書かれていた。 「初めて頂いたお給料で買われたと嬉しそうに仰っていました。……ほら、創士さんにとてもよくお似合いですよ」 家政婦は俺の胸にネクタイを当てて微笑んだ。 俺のために選んだネクタイに触れる。 思い出したのは、いつも俺の隣で見せる笑顔と、一昨日の悲しそうな顔。 「……俺は……柊のこと、何もわかってやろうとしなかった……」 俺の中に後悔だけが激しく渦巻いた。

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