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第82話

週が明け、早めにマンションを出て大学へ向かった。 大学の構内へは、いくつかある門の中で一部の在学生しか知らない門から入った。 「柊おはよー」 「田村、おはよう」 「おっ、だいぶ声が出るようになったな」 週末、マンションからほとんど出ず、誰にも会うことなく過ごしたからか、咳も治まって、まだ少し掠れてるけど声も普通に出せるようになった。 「そういやぁ、昨日メール送ったらさ戻ってきたんだけど、どうしたん?」 「あ、ごめん。土曜に携帯壊れちゃって買い替えたんだ。データ全部飛んじゃって連絡できなかった」 「マージかぁ。そりゃ災難だったな。あとで連絡先交換しようぜ」 「うん」 新しい携帯を見せながら説明すると、田村は疑いを抱くことなく納得してくれた。 「あ、そうだ。田村にお願いがあるんだ」 「ん?俺でできること?勉強は無理だぜ」 「ふっ、勉強じゃないよ。……僕さ、バイト始めようかなぁって思ってて。あの洋食屋さん以外でちゃんとバイトしたことないからさ……」 「なるほど、わかった。大学内にバイト募集の掲示板あるから案内するよ」 「ありがとう。あと、履歴書の書き方も教えてもらっていいかな?」 「よぉし、俺が手取り足取り教えてやるよ」 田村は二つ返事で了承してくれた。 「でもその前に」 「?」 「バイト面接までにその風邪ちゃんと治そうな」 「うっ……ゲホゲホゲホ」 バシッと背中を叩かれ、思い切り咳き込んだ。 もう10月が終わろうとしていた。

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