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第83話
1週間前から始めたバイト探しだが「風邪の治っていない。まだダメだ」と田村に止まられたため、情報誌をパラパラ眺めてチェックを入れる程度で止まっていた。
「健康アピールは大事だぞ。無理して体壊してぶっ倒れられたら雇う側も困るからな」
ガハハハっと笑う田村は、すでに自分がそれをやらかしていることを忘れているようだ。
田村の見立てて、バイト先の候補を家庭教師と本屋などの接客業に絞り込んだ。
生憎、家庭教師は出ていた募集が取り下げられなくなってしまったけど、試験前に稀に短期の募集が出るらしいから、その時に自分に合うか一度試してみたらどうかと田村に勧められた。
一人暮らしも始めてみたら、それなりになんとかなった。
ご飯は簡単なものばかりになっているが、できるだけバランス良く食べるようにした。
今は一人で生きていく力をつけることだけ考えた。
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「あれっ。あーそっか柊の誕生日再来週か」
「わっ……あ、うん」
大学内の図書館で何枚目かの履歴書を書いていると正面で課題に頭を抱えていたはずの田村が身を乗り出して覗き込んでいた。
「誕生日、家族とお祝いすんの?」
「あ……えっと、どうかな。平日だし。……それに僕もお祝いはもういいかなって」
「何言ってんだ。まだまだ祝って欲しい年頃だろ。俺がそうだからな。あとさ、家族の誕生日を祝いしない人がいるわけないだろ」
人目を憚らず田村は力説するが、周りの目は冷たかった。
田村はああ言ってくれたけど、一人になった僕に誕生日を祝ってくれる家族なんかいない。
それに、田村には家を出て一人暮らしを始めたことも言えずにいた。
「うん、そうだね」
田村の熱弁に今は肯定した。
「つか、何枚書いてんだよ」
「……あ、えと、10枚かなぁ?」
「おまっ、書きすぎっ」
「いや……ほら、何回不採用って言われるかわからないから」
「イヤイヤイヤ。俺ならともかく、お前なら一発採用だから書くのはそれで最後にしろ」
「わかった」
田村に止められ、あと2枚は書こうと思った白紙の履歴書と一緒にバッグに仕舞った。
周りの視線が一層冷たくなったことを感じた田村と僕は大学内にあるカフェに移動した。
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