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第87話
※田村視点
いつからかはわからない。
気付くと友人以上の気持ちがそこにあった。
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最初は同じ男なのに綺麗な人だと思った。
次に同じ歳、学部と学年が同じだと知って親近感が湧いた。
だから、友達になるのに時間は掛からなかった。
柊はなんとなく人を寄せ付けない感じがあったが、打ち解けるととても気さくな奴だとわかった。
頭がすごく良いのに全然驕ることはなくて、いつも謙虚で優しい奴だった。
だから、2年に上がってすぐの頃、突然泊めて欲しいと連絡が来た時は驚いた。
数時間前までサークルの飲み会に付き合ってもらい、その後、真っ直ぐ帰宅すると店の前で別れたはずだった。
でも、それ以上に驚いたのは、襟から覗かせた噛み跡と無数の赤い痣。
そんな事に無縁と思っていた奴の身体に残された激しい情事の跡に衝撃を受けた。
その相手が男だと気付いたのは8月。
帰省から戻った駅で見かけた。
数メール前で柊の腰を抱く男から感じる柊に対する執着は側から見てもわかるほどだった。
そして、柊が一時異常に痩せた理由もこの男が原因だと何となく気づいた。
その後、友人以上の気持ちを抱いていることに気づいたのは、風邪で寝込んだ時だった。
柊は俺の代わりにバイトをしてくれただけでなく、アパートに泊まりこんで俺の看病もしてくれた。
野菜を嫌がる俺に、怒った顔をしたかと思うとすぐに困ったような顔で笑われると、なんかむず痒い気持ちになった。
その気持ちも、代打のバイト最終日に見たキラキラした笑顔に一瞬で嫉妬に変わった。
その笑顔には俺には見せない『好き』が見えて、その想いは決して俺に向くことはないと思い知らされた。
でも、今は違う。
目の前で全てを打ち明けてくれた。
痛ましく思う内容だったが嫌悪感はなかった。
それどころか、酷く傷つき恐怖に怯えている姿を見て守りたいと思った。
そして、あの時他の誰かのものだった笑顔を俺のものにできるチャンスだと気付いた。
今なら創士様 に勝てる。
全力で守ってやるから、その眼を俺に向けてくれ。
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「……たむーー」
腕の中で綺麗な涙を流す顔に唇を寄せた。
柊の唇が俺を受け入れてくれることを願ってーー。
俺の願いは唇同士が触れる寸前、掌に阻まれた。
掌に押し戻された俺の目に映ったのは、俺を見る悲しそうな目だった。
「ごめん。……僕は……田村の気持ちに応えることはできない」
ごめん。
もう一度そう言うと去っていった。
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