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第88話
門を出ると、既に車が横付けされていた。
運転手が降りてきて後部座席のドアを開けたため、黙って乗り込んだ。
「ちゃんと約束を守ったね」
「何の用ですか?」
「うん。たまには一緒に食事をしようかと思ってね、レストランを予約したんだ。フレンチだけど食べれるよね?」
「……はい」
帰してもらえそうにない雰囲気に僕は諦めた。
車は15分ほど走ると街中で止まった。
「え……?」
「ああ、今日のレストランは星付きでね、ドレスコードがあってスーツでないといけないんだ。買ってあげるからそこの店に行こう。ほら降りて」
逢坂様は無理矢理僕を降ろすと、見るからに高級な店に僕の肩を抱いて入った。
そこで30分掛け僕は全身をコーディネートされあ。
僕のことを自分好みに着飾って気分が良い様で、帰りも僕の肩を抱き鼻歌を歌いながら車に戻った。
「これから行くところね、一度柊と来てみたいと思っていたんだ。僕の手ずから着飾った君を連れて行けると思ったら、もう楽しくてならないよ」
ふふふと笑う目は獲物を狙う獣のように鋭く、僕からしたら不安だけが募る。
たけど、着ていた服とバッグを取り上げられている状態では逃げることもできなかった。
車を10分ほど走らせると目的のホテルに着いた。
ここでも逢坂様は僕の腰に手を回しピタリと密着すると、周りに見せつける様に高層フロアにあるフレンチレストランに僕を連れて行った。
その個室は夜景の美しさもさることながら、壁に掛けられた絵も素晴らしいものだった。
絵の中にいる窓辺にちょこんと座る黒猫の後ろ姿がクロスケに見えた。
「その絵いいだろう?この絵を描いた画家は、絵の中に必ず猫を描き込むのが特徴なんだ」
「はい、とても可愛いですね」
「ふっ、素直だね。そうそう、以前ここに連れてきた人も、君と同じような目をして言っていたよ」
その姿を思い出したのか、ククッと笑った。
星付きとレストランと言うだけあって、料理はとても美味しかった。
逢坂様はずっと機嫌が良く終始楽しそうに話し続けた。
それを僕は黙って聞き流していたため、その内容はほとんど覚えていない。
レストランを出ると僕は深々とお辞儀をした。
「ごちそうさまでした。これで失礼しますので、僕の荷物を返しーー」
「ねぇ。もう少し付き合ってよ」
隣に並び後ろに回された手で腰を撫でられ鳥肌が立ちブルリと震えた。
その腕から逃れようと体を捩ると、レストランに入ろうと立っていた後ろの人にぶつかってしまった。
「あっ、すみませーー」
「いえ、大丈ーー」
僕も相手も言葉を失った。
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