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第92話

僕は顔馴染みの司書さんに勧められて、翌日から大学内の図書館で水曜日と金曜日の週2日、講義の後から21時までアルバイトをすることになった。 期間は年内いっぱいだが、それまでに僕のアルバイト先が見つからなかったら、もう少しだけ伸ばしてくれると言ってくれた。 業務は主に返却された本を検品して元の場所に戻すこと。 書き込みや破損を見つけたものは分けて、司書の方に渡す。 あと、館内を見回って戻し忘れの本や棚に違うジャンルの本があれば戻した。 僕はよくこの図書館を利用していたが、すべてを見ていたわけではなかったので最初は配置図と睨めっこしながら作業をした。 でも終わる頃には配置図を見なくても回れるようになった。 今まで気づかなかったけど、本に貼られたラベルは司書の方々が管理しやすいように色々工夫されていた。 それさえ分かってしまえば、僕でもある程度スピードアップできた。 そして、所々に見られる修復の跡に1冊1冊大切に扱われていることがわかり、僕も大切に扱わなければという気持ちが強くなった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 金曜日。 バイトが終わり携帯を見ると、見知らぬ番号から着信があった。 それから30分後、また着信があった。 「はい」 「柊さん、私よ」 電話から聞こえた声に背筋がピンと伸びた。 相手は奥様だった。 緊張で震える声を悟られないように深呼吸をして少しでも心を落ち着かせる。 「何かご用ですか?」 「あるから電話したのよ。態々2回も」 アルバイト中で出られなかったことを責められ、つい「すみません」と謝罪の言葉を述べるとフンッと鼻で笑われた。 「今度の日曜日に沙耶華さんの従兄弟の結婚式があってね、披露宴に家族(私たち)も呼ばれたの。まあ、結婚したら親戚になるからその顔合わせというところかしらね。でね、沙耶華さんのお祖父様が柊さんも呼んで欲しいって言ってきたのよ。血の繋がらない赤の他人を呼べって……。ホント、ボケちゃったのかしら?あなたもそう思わない?一応声を掛けますけど難しいと思いますよって答えといたわ。ねぇ、あなた来れないでしょ?」 「……はい。用事があって伺えません」 「ふふ、良く言えました。あ、一応、当日は家から一歩も出ないでね。よろしく」 一方的な電話は一方的に切れた。 マンションに帰ると着替えもせず布団に潜り込んだ。 ついにこの日がきてしまうのか。 たぶん、これで本当に決別ということになる。 創士様に引き取られてからもう少しで8年。 一時離れたことはあったけど、想いが通じ合ってからの2年は今まで生きていた中で一番幸せな時間だった。 「だから……この思い出があれば僕は独りで生きていける。……大丈夫だ」 そう何度も言葉にしながら目を閉じた。

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