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第93話
土曜日に買い物を済ませると、日曜日は奥様に言われた通り家から一歩も出ないことにした。
何をする気が起きず膝を抱えていると、突然携帯が鳴った。
画面を見ると田村からだった。
躊躇っている内に切れてしまったが、すぐにまた鳴った。
「あ、もしもし、柊?寝てたのか?」
通話ボタンを押すと耳に当たる間も無く田村の大声が聞こえた。
「ううん。起きてた」
「なんだよ、起きてたんかい!で、今どこ?家?」
「家……だけど、なんで?」
「わかった!もう少しで着くからそのまま待ってろ」
田村はそれだけ言うと電話が切れた。
嵐のような電話に呆気に取られていると、5分後、インターフォンが鳴った。
ボタンを押すと画面いっぱいに田村の顔が現れゼイゼイとした荒い息で画面が曇り、思わず「ヒィッ」と悲鳴を上げてしまった。
「柊、早く開けてくれ」
言われるがままロックを解除すると画面いっぱいの田村は消え、その1分後に今度は玄関のチャイムが鳴った。
「あ、あの、田村?」
「ゼーゼーゼー、うえっゴホゴホッ。は、入るぞ」
「あ、ど、どうぞ」
鬼気迫る顔と勢いに思わず招き入れてしまった。
ベッドに倒れ込みなおもゼーゼーと全身で息をする田村にグラスに注いだ水を渡す。
田村はそれを一気に飲み干し、咳き込んだ。
「だ、大丈夫?」
「ゲホッ、ゲホッ、だ、大丈夫だ。ゲホッ、すぐ、ゲホッ、おさ、まる」
そして、田村は3分ほどで喋れるまでに呼吸を整えた。
おかわりの水を一口飲むと口を開いた。
「柊、何で家にいんの?」
「え?あの、特に用事がないから」
「用事ならあるだろ」
語気を強めたセリフにビクッと肩が跳ねた。
用事はないと言えばないのだが、「本当にないの?」と聞かれたら「ない」とは言えない。
でもこれは僕の我儘で、たくさんの人に迷惑をかけてしまうこと。
答えられず俯いていると田村は立ち上がりクローゼットの前に行くと突然その扉を開けた。
「田村っ、な、何してるの?」
「んー。ああ良かった、あった」
田村は手を突っ込んで掴んだものを僕に投げてよこした。
「えっ?えっ?なんでスーツ?」
「それ着て乗り込むんだよ。んで、お前の"ソウシサマ"を奪い返してこい」
田村は親指を立ててニッと笑った。
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