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第94話
※創士視点
「それなら賭けをしよう」
その人は言った。
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何もなくなった部屋の真ん中で寝転び窓から月を眺める。
6畳の部屋はいつも綺麗に整頓されていた。
「狭くないか?」
そう聞くと「十分広いですよ」と笑って返された。
実際、家具が全てなくなった部屋はとても広く感じた。
『創士様っ、僕はーー』
「あの時、咳き込まなかったら何と続けようとしたんだ?」
今になってどうしようもなく気になってしまい口にしたが、その答えは返ってこない。
携帯に電話を掛けたがすでに解約されていた。
義母に連絡をし居場所を聞いたが答えてはもらえなかった。
大学には行っているようだが、仕事があって会いに行くことができていない。
時だけが過ぎていった。
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柊が出て行ってから、婚約者と会う頻度が上がった。
休日に呼び出されるのはもちろん、平日の仕事の終わる頃に会社に来ることもあった。
今日は仕事中に乗り込んできた。
前日誘いを断ったにも関わらず、だ。
「レストランの個室の予約が取れたんです。ここだけは父のコネが使えなくて苦労したんですよ」
「沙耶華さん、昨日お断りしましたよね」
「ふふふっ、だから少し遅い時間帯を予約したんです。ホテルの中にあるレストランですし、上の階にはバーもあるので飲んで遅くなったらそのまま泊まりましょう」
俺の言葉を無視して、楽しそうに腕を引っ張り俺を立たせた。
仕方なくPCの電源を落とし、残業している社員に声を掛けて婚約者と会社を出た。
着いたレストランは、以前、逢坂と来たところだった。
「夜景がすごく綺麗に見られる個室なんですって、楽しみだわ」
当然のように俺の腕に手を掛けエスコートを要求する婚約者にため息が漏れた。
そこにちょうどレストランから出てきた客がぶつかってきた。
「あっ、すみませーー」
「いえ、大丈ーー」
謝罪してきた相手を見て言葉を失った。
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