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第94話

※創士視点 「それなら賭けをしよう」 その人は言った。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 何もなくなった部屋の真ん中で寝転び窓から月を眺める。 6畳の部屋はいつも綺麗に整頓されていた。 「狭くないか?」 そう聞くと「十分広いですよ」と笑って返された。 実際、家具が全てなくなった部屋はとても広く感じた。 『創士様っ、僕はーー』 「あの時、咳き込まなかったら何と続けようとしたんだ?」 今になってどうしようもなく気になってしまい口にしたが、その答えは返ってこない。 携帯に電話を掛けたがすでに解約されていた。 義母に連絡をし居場所を聞いたが答えてはもらえなかった。 大学には行っているようだが、仕事があって会いに行くことができていない。 時だけが過ぎていった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 柊が出て行ってから、婚約者と会う頻度が上がった。 休日に呼び出されるのはもちろん、平日の仕事の終わる頃に会社に来ることもあった。 今日は仕事中に乗り込んできた。 前日誘いを断ったにも関わらず、だ。 「レストランの個室の予約が取れたんです。ここだけは父のコネが使えなくて苦労したんですよ」 「沙耶華さん、昨日お断りしましたよね」 「ふふふっ、だから少し遅い時間帯を予約したんです。ホテルの中にあるレストランですし、上の階にはバーもあるので飲んで遅くなったらそのまま泊まりましょう」 俺の言葉を無視して、楽しそうに腕を引っ張り俺を立たせた。 仕方なくPCの電源を落とし、残業している社員に声を掛けて婚約者と会社を出た。 着いたレストランは、以前、逢坂と来たところだった。 「夜景がすごく綺麗に見られる個室なんですって、楽しみだわ」 当然のように俺の腕に手を掛けエスコートを要求する婚約者にため息が漏れた。 そこにちょうどレストランから出てきた客がぶつかってきた。 「あっ、すみませーー」 「いえ、大丈ーー」 謝罪してきた相手を見て言葉を失った。

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