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第101話
「この部屋には押し入れがないから、奥にクローゼットを設置する予定だ。そうすると今より少し狭くなってしまうが」
「それでも僕には広すぎですよ」
「ふっ、やはりそう言うと思った」
創士様はドアと反対側のベッド脇の空きスペースへ連れて行き、壁に手をついて僕を見た。
「だから、ここにドアを付けようと思うが、いいか?」
「それは……」
「ここのドアで俺の部屋と柊の部屋を繋げる。……駄目、か?」
眉をハの字にして聞くなんてずるい。
頭をフルフルと振り笑った。
「僕、毎日のように押しかけちゃいますよ。いいんですか?」
「ああ構わないよ。柊に寝込みを襲われるなら大歓迎だ」
「……ぷっ、そんなことはしませんよ」
「ふ、残念」
創士様は僕のおでこに優しいキスを落とした。
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リビングに戻り創士様は僕をソファーに座らせると紅茶を淹れてきてくれた。
「あの時の仕切り直しをしたい。ちゃんと話を聞くから、お前の言葉で聞かせてくれるか?」
僕は頷いて、あの時言えなかった逢坂様との契約について包み隠さず話した。
「やはり脅されていたじゃないか。しかも……俺のためだったんだな……ごめん」
「違います!僕の考えが浅はかだったんです」
「だからといって、まだ学生のお前を脅して言うことを聞かせていいことにはならない。警察に相談してもいいくらいだ」
僕の代わりに創士様が怒ってくれた。
それだけで、僕は十分だ。
されたことは消すことはできないけど、もう僕は騙されないし、この気持ちも揺るがない。
騙され……。
「あ……」
「ん、どうした?……え、柊?」
僕は立ち上がるとスーツを脱いで、上半身だけ裸になった。
「……」
「その痕……」
身体に薄ら残る噛み跡とキスマークに創士様は目を見張った。
その視線が怖くて目を合わせることができず目を閉じると創士様が立ち上がる気配がした。
風が起き肩にフワリとジャケットを掛けられた。
「柊、座って。それから……ちゃんと……何があったのか俺に、ちゃんと教えて」
創士様と一緒にソファーに腰掛けると、震える唇を無理矢理動かした。
「あのホテルで創士様と会った後、僕、すぐに帰ろうとしたんです。でも……逢坂様に一杯だけ付き合ったら帰ってもいいと言われて上の階のバーに行きました。そこで出されたお酒を飲んだら……一杯で酔ってしまって……立てなくて……それで、抱き上げられて、部屋に連れて行かれて……そのまま……」
「そうか」
「ごめっ……ごめんなさぃ」
「謝るな。たぶん、出された酒に薬が混ぜられていたんだろう」
「でもっ」
「あそこのオーナーは逢坂の知り合いだ。カクテルに薬を混ぜることなんて造作もない」
青褪め震える僕の身体を創士様が優しく包んでくれた。
「だから……柊は何も悪くない」
その言葉に涙が溢れた。
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