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第104話

「ただいま帰りました」 「柊さん、おかえりなさい」 家政婦さんが駆け足で玄関にいる僕を迎えに来てくれた。 「さぁさぁ、早く上がってください」 「ま、待ってください。まだ靴が……」 家政婦さんは嬉しそうに僕からバッグを奪うと、空いた手で僕の手を引っ張った。 靴をそろえる間も無くダイニングルームに連れて行かれた。 「わぁ、すごい……」 「今日は手巻き寿司ですよ」 テーブルには酢飯が入った桶と大皿には沢山のネタが並んでいた。 それだけでなく、茶碗蒸しやお吸い物も添えてあった。 「おかえり、柊」 声をかけられ振り返ると、創士様はシャンパンボトルを持っていた。 「まあ、シャンパンなんて豪華ですね」 「飲みやすくて寿司にも合うものを買ってきた。貴女も呑まれますよね?」 「あら、私もいいんですか?酔っ払って帰ったら旦那様に叱られてしまうので、一杯だけお付き合いさせていただきますね」 家政婦さんはそう言うと嬉しそうにキッチンにグラスを取りに行った。 一杯だけと言っていた家政婦さんは3杯飲んだ。 「だってこのグラス、お洒落なのにちょーっとしか入らないんですもの」と言っていたけど、きっと好みの味だったんだと思う。 その証拠に、創士様に銘柄とどこで買ったのか聞いてメモっていから。 そんなほろ酔いの家政婦さんは珍しく一緒に食事をして、後片付けを終えると帰っていった。 「柊、リビングで少し待っていてくれるか?」 2人で家政婦さんを見送ると創士様はキッチンに向かった。 僕は言われたままリビングルームに入ると、テーブルには赤い可愛い花が花瓶に飾られていた。 「可愛いお花。なんのお花なんだろう?」 「それはゼラニウムだ」 「ゼラニウムなんですね。わっ、苺のケーキ」 戻ってきた創士様の手には紅茶とケーキを載せたトレイがあった。 直径12cmのホールケーキにはたっぷりの生クリームが塗られていて、上辺にはプレートが隠れるほどの苺が載っていた。 「柊は苺が好きだから苺たっぷりのケーキを作ったんだ」 「作った……えっ、創士様が作ったんですか?」 「殆ど家政婦が作って、俺は苺を乗せたくらいだ」 「でもすごく嬉しいです!ありがとうございます」 創士様はケーキに蝋燭を刺し火を点けると部屋を薄暗くしてバースデーソングを歌い、僕は照れながらその火を吹き消した。 「ケーキを食べる前にプレゼントを渡したいが、少しだけいいか?」 僕が頷くと創士様はポケットから小さな箱を取り出し、それを僕に差し出した。 「開けていいですか?」 「ああ」 箱をそっと開けた僕は息を飲んで創士様を見た。

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