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第111話
あの後、やっぱりキスだけでは終わらなくて、バスルームで一回だけした。
「柊、腰痛いのか?……って、まさか……ムフッ」
目の前でムフムフ笑われ、不機嫌な顔を隠すことなくジト目で見ると田村は「ヒッ」と小さな悲鳴を上げた。
「珍しいな、いつもは張り付いた笑顔で流すか適当な話で逸らすのに」
「ま、まあ、ちょっとね」
「それはやっぱり、その左手の薬指と関係あるんだよな。校門の前でもラブラブだったって噂になっていたぞ。あー羨まっ」
目敏く指輪を見つけただけでなく、校門の前でのことも知られていたことに僕は驚き赤面すると田村はニカっと笑った。
今日は大学まで創士さんが送ってくれ、バイトが終わる頃に迎えにくると言ってくれた。
でも、過剰なスキンシップはしていない。
頬を触れられただけだ。
でも、それだけのことでその場に居合わせた人にはラブラブに見えたのか。
「堂々としてろよ」
「えっ?」
「悪いことしてるわけじゃねぇんだろ?なら、堂々と見せつけておけよ」
笑顔で親指を立てる田村に苦笑した。
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バイトを終え校門に向かう。
今日は閉館時間を過ぎても調べ物をしている生徒がいて、何やなんやで30分ほどオーバーした。
ため息をついて顔を上げると校門のところに人影が見え駆け寄った。
「柊、おつかれ」
「創士さん。いつからここに?」
「ほんの5分前だよ」
「……もっと前ですよね?遅くなってごめんなさい」
そっと触れた手は冷え切っていた。
はぁっと息を吹きかけると頭上でふっと笑い声が聞こえる。
「柊が手を繋いでいてくれていたらすぐ温かくなるさ。近くの駐車場に車を止めているから早く行こう」
「はい」
創士さんと手を繋いで晩御飯の話をしながら駐車場に向かった。
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