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第113話

「柊の母親は……というか、両親はすでに亡くなっていたよ」 「……そう、なんですか……」 創士さんはベッドの中で僕を抱きしめながら、調べてもらった内容を話してくれた。 2人とも事故で亡くなった。 僕の父にあたる人は僕が生まれる半年前、交差点で信号待ちをしているところに居眠り運転のトラックに突っ込まれたらしい。 母と婚約してすぐの頃だった。 父はその際、頭を強く打ったにも関わらず、他の怪我人の救助を手伝いその人たちに救急車を譲って、のちに倒れてそのままーー。 母は僕を病院の前に置き去りにした後、交差点に飛び出したそうだ。 隣県の病院に運ばれた母は半年ほど昏睡状態だったらしい。 身分を証明するものを何一つ持っていなかったことと家族のいない母を失踪したと届け出る人はいなかった。 やっと身元が判明した頃には僕は施設に預けられてしまっていた。 半年後、目覚めた母は病室を抜け出し、病院を出たところで轢き逃げに遭って亡くなった。 「最初に運ばれた時、柊のお母さんは車に轢かれたわけではなく、出産時の出血によるものだったそうだ。状況から、自宅で1人で出産して処置もせずに近くの病院のエントランスに柊を置いていったのだろうと当時対応した医師が言っていたそうだ」 「……」 「ただな。通報した人の話によると、彼女は横断歩道を渡り切った後、突然振り返って戻ろうとしたらしい」 「戻る?」 「ああ、病院を抜け出して轢かれた時も、うわ言のように『柊、柊』とお前の名を呼んでいたそうだ」 え……。 「俺の勝手な推測だが、頼る家族もなく子どもの父親も亡くして衝動的に手放してしまった柊を迎えに行こうとしたんだろうな」 「僕を……」 「柊はちゃんと愛されていたんだよ」 僕は愛されていた……の? 「それと……柊の父親についてだが、」 「?」 「父親の両親は……、柊の祖父母にあたる人はたぶんおじいさんとおばさんだ」 「う、そ」 見上げた創士さんは嘘を言っている目はしていなかった。 「検査をしないことには断言はできないが……。柊も2人には事故で亡くなった息子がいることは聞いているだろう?」 「聞いては、いますが……」 行き倒れてお世話になった頃に聞いた記憶がある。 「ごめんなさいね。今使える布団が息子が使っていたものしかなくて……。あ、でも大丈夫よ。息子は……もう先に逝っちゃったから」 まだ熱が高くて寝込んでいておばあさんの言葉を夢現な状態で聞いたし自分から聞くことはなかったこともあり、すっかり忘れていた。 「だからかもな。行き倒れていた柊を理由も聞かずに住まわせたのは、どことなく亡くなった息子に似ていたこともあったのかもしれない」 目を見開いて驚くことしかできない僕を創士さんは優しく見つめた。 「検査……してみるか?」 僕はフルフルと頭を横に振った。 もし血が繋がっていたら嬉しいけど、そうであっても違っていても今の関係を続けられない気がして怖い。 創士さんは「そうか」と言うと僕の髪を撫で、見上げた僕に微笑んだ。 「……柊、俺の考えだが、お前の父親もきっとお前とお前の母を愛していたよ。お前の名前はその人から貰ったんだから」 そう言って目蓋にキスをした。

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