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第114話

僕には両親がいた。 どちらも他界しているけど。 「あの……じゃあ、沙耶華さんの叔母さんは」 「それについては詳しく調べてないが、聞いた話では子どもは亡くなっているらしい」 赤ちゃんの人形を抱く女性はフワフワしててどこか夢を見ているようだった。 それは子どもを亡くしたショックからかもしれない。 でも僕と血縁関係ではないのならこれ以上詮索をしてはいけない。 ただ、心穏やかに過ごして欲しいと思った。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 「柊から聞きたいことはないか?」 「そうですね……あ……」 「なんだ?」 少し考えた僕は結局聞くことにした。 「創士さんの誕生日の時のこと、聞いていいですか?」 「あー、あの日か」 思い出したのか、創士さんはものすごく苦々しい顔をした。 「あ、いや、話せないのならーー」 「いや、胸糞悪いだけだ」 「胸糞…?」 沙耶華さんに誘われて一緒に食事をしたのではないのか? 胸糞が悪くなるほどのことって、何があったのだろう? 「あの日は逢坂と食事をしただけだよ。急に呼び出すからトラブルでも起きたのかと思ったら『お誕生日おめでとう』って祝われたよ。チッ」 「ふふっ」 本当に嫌だったのか、ものすごい不機嫌な顔をするからつい笑ってしまった。 「その後、バーに連れてかれて一杯盛られた。起きたら腹の上に女がいた」 「えっ!」 「何もなかったよ。女が俺の身体を見て怯えている隙に部屋から追い出した。薬が抜けるのを待ってから帰ったんだ」 「そうなんですね。……良かった」 安心する僕に創士さんは口付けた。 それはすぐに深くーー。 「あ」 「ふぇ?」 「柊、逢坂と行ったホテルのレストランのこと覚えているか?」 「あ……はい。料理がとても美味しかったです。あと、案内された個室の夜景が綺麗でした。でも、夜景より掛けられた絵に描かれた猫にクロスケを思い出してそればかり見てしまいました」 そう言うと、創士さんはフハッと吹き出した。 そして、僕の額に自分の額を合わせて創士さんは嬉しそうに言った。 「俺も同じこと思った。それから、柊なら俺と同じこと思うんじゃないかなって」 「……ふふっ、当たりましたね」 「ハズレるわけがないだろう」 創士さんの頬に手を当てて、中断してしまった深いキスとその先を飽きることなく続けた。

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