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第9話 ブラッシュアップ
ボクは俯 き、考え込んだ。あの呪文 のような言葉が思い出せない。目の前には先輩がこちらを伺う。もうこれ以上待たせる訳にはいかない。
「アプセト...デネブ」
しばらくの間、まるで時間が止まったように、空気が重たく感じた。この空気はいささか居心地が悪い。ここから少しでも早く、パラシュートで脱出したい。そこへ半袖になったサラリーマン風の方が耳元で囁 いた。
「今夜、星見に行かへん?」
その時、ボクはゲレンデからホットコーヒーで一服するかのように深く、息を吐き、ホッとする。
外へと出向く二人は蒸し暑さの感じる昼間から心地よい風が靡 く夜空。
見上げると、手に持っていたのは缶コーヒーである。
差し出され、その一本を左手で取る。多少手の温もりが感じた。
「もしかして、ネデブでしたか」
「せやで。あれやと夏の大三角になるやん」
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