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幼馴染み_5

胸中に渦巻いた不信感だったが、もう会うこともないだろうと唾と一緒に飲み込む事にした。 それよりも手早く会計を済ませ店を出て行ってしまった薫を追うことの方が最優先事項だ。 「薫!待って、俺の分は自分で払う……いくらだ?」 ごそごそと財布を取り出した俺を横目で見た薫は、「いらないよ」と呆れたように言葉を返した。 「その代わりもうあんな恥ずかしい事、他の人に言うなよ」 「…………やっぱり払う」 「いや、いいってば」 「――……恥ずかしい事なんかじゃない。何も恥ずかしい事は言ってない。俺が薫を好きな気持ちは、恥ずかしい事なんかじゃない……!」 財布から取り出した札を握り締めて、薫の胸に押し付ける。 αとΩは男同士であっても女同士であっても惹かれ合う。 世の中はそれを当然であると受け止めるのに、どうしてβの俺が男を好きになる事はそう受け止められないのだろう。 αとΩだって皆が皆、本能だけで惹かれ合うわけじゃないのに。 「……こんなに好きなのに、俺には何が足りない?」 「…………」 押し付けた札ごと薫の手が俺の拳を包む。 「……壮史郎に足りないものはないよ」 「でもそれじゃ――」 「――壮史郎は、昔から僕の大事な幼馴染みだ。それはずっと変わらない、今までもこれからも」 押し戻された手はすぐに離れた温もりを恋しく思う。 「素敵な女性と恋をして、結婚して、家庭を築く。それが君にとって幸せだ」 「違う。俺にとっての幸せは薫とずっと一緒にいる事だ」 「一緒に居れるよ、幼馴染みでも」 それじゃ嫌なのだと反論した俺に、薫は寂しそうに笑った。 「ごめん。僕には壮史郎が本当に望むものを与えてあげる事は出来ないんだ」

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