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幼馴染み_9

side β 聞こえてくる水音に心臓がドキドキする。 撫でられた頭の感覚が擽ったいし、頑張って作ったおにぎりを食べてくれた姿を思い出すと嬉しくて胸が苦しい。 心配して触れてくれた手なんて未だに熱いぐらいだ。 真っ赤になった掌は火傷のものなのか、単純に俺の体温が高いだけなのか見分けが付かない。 薫、全部食べてくれた。優しい。 次は味噌汁もつけよう。また練習してこよう。 ジンジンと熱を増す掌を握り締めながら、昨日の薫の言葉を頭の中で反芻させる。 俺にとっての幸せは薫と居ること。でもそれは幼馴染みとしてじゃなくて、俺は……俺は薫と……。 その為にはまず、脱幼馴染み枠しかない。いつまでも今の関係に甘えていたら何も進展しないまま、薫はいつか番を見つけて、俺の手の届かないところへいってしまうだろう。 αとΩの番関係の前じゃβの幼馴染みなんて、単なる他人だ。 特に運命の番なら、尚更。 相性100パーセント、出会う確率1パーセント未満。それが運命の番。運命の番であるαとΩは本能で惹かれ合い、必ず結ばれる……約束されたハッピーエンドなんて言われるぐらいだ。 もちろんこの広い世界でたった一人の運命に出会えるだなんて相当な確率。だけどこの世にそんな人間が存在している事は間違いない事実。 そんな相手が現れたら俺なんて勝ち目が無いことは一目瞭然だ。 「……せめて、Ωだったら良かったのに」 ポツリと溢れた本音に同期でたった一人のΩを思い出した。 そのΩは一見するとβの俺と差異のない体格をしていて、正直Ωだと言われても本当だろうかと最初は疑問を持った。 確信に変わったのはワイシャツの襟元から覗く項から見えた噛み痕。 思わず「本当にΩだったんだな」と呟いた俺に、ソイツ――浅井 宗一(あさい そういち)は顔を赤らめ項に触れて、「…………うん」と小さく返してきた事を覚えてる。 凄く、羨ましかったから。 番がいることは予め聞いていた。四年の片想いの末、結ばれたらしく、語る浅井の顔は終始幸せそうだった。 「――壮史郎?おーい、大丈夫?」 「――え…………」 不意に頭上から降ってきた声に顔をあげると、既に準備を終えたらしい薫が怪訝な顔で俺を見下ろしていた。

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