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幼馴染み_12
呼び止めても薫の足はどんどんスピードを上げていく。
「薫!」
「…………っ」
走って追いかけた背中。左手首を捕まえると、その足はようやく歩みを止めた。
「薫、今――」
逃げられないよう手首を掴んだまま、薫の前に回り込んで、見上げた表情に俺は言いかけた言葉を飲み込む。
眉を寄せ、下唇を噛み締めた薫のこの表情 を、俺はよく知ってる。
子供の頃何度も見た。泣くのを我慢してる時の、表情。
「あ……えっと……」
「…………」
「今……その…………――飲み物!買ってくるから、ここで待っててくれ」
掴んでいた手首を離して踵を返す。
走り出した俺を追いかけてくる気配はない。
どうしてそんなに心臓が鳴ってるんだ。
どうしてそんなに泣きそうなんだ。
聞きたかった。だけど聞けない。
薫のあの表情を見ると聞けない。
“壮史郎は僕のヒーローだね”そんな小さい頃の記憶が頭を掠めて、守りたくなってしまうから。
闇雲に走って見つけた自販機の前で足を止める頃には、薫の姿はすっかり見えなくなっていた。
「…………俺の意気地なし」
結局これじゃあいつまで経っても幼馴染みの枠を抜け出せない。
「俺は…………ヒーローになりたいわけじゃないのに……」
好きだから守りたくて、好きだから傍に居たくて、好きだから触れたくて…………全部全部、薫が好きだから。
「…………幼馴染みじゃ、だめなんだ」
それだけじゃもう足りない。満足出来ない。俺は……。
「――あのさ、買わないんだったら避けてもらっていい?」
「え……」
不意に掛けられた声と肩に置かれた手の感触。
振り返った先には薫と同じぐらい背の高い男が、俺を見下ろしていた。
「飲み物買いたいんだけど」
「あ…………す、すみません」
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