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第3話

 次の日、リノはビクトルの狂信的なファンの一人に呼び出された。彼女は特にリノを目の敵にしている生徒で、何度もリノに暴言を吐き、ビクトルから遠ざけようと躍起になっている。  そんな彼女と空き教室に二人きりになり、リノは顔を強張らせた。  また色々と言われるのだろうか。  リノを見る彼女の視線は憎悪に満ちている。  剥き出しの悪意を向けられ、ぞくりと悪寒が走った。  彼女は常にリノを蔑み嫌悪しているが、今の彼女はいつもと雰囲気が違う。  嫌な予感にリノは怯えた。  彼女と二人きりでいるのは危険かもしれない。  後退るリノを制するように、彼女が口を開いた。 「なんであんたが……」 「え……?」 「なんであんたみたいなヤツが、ビクトル様に近づくのよ!」  ぎろりとリノを睨み付け、激昂する。 「ビクトル様に近づくなって言ったでしょ!? それなのになんで図々しく近づくのよ! 声をかけるのよ! あんたみたいな醜いブタが、ビクトル様の視界に入らないで!」  彼女は激しくリノを罵倒する。昨日リノがビクトルと一緒に帰っているのを見られていたのかもしれない。  リノはどうすればいいのかわからなかった。言い訳すれば余計に相手を怒らせてしまいそうだ。かといって、謝った程度で彼女の怒りが収まるとも思えない。  なにも言えずにいるリノに、彼女が迫る。 「誓いなさいよ!」 「え……?」 「もう二度とビクトル様に近づかないって誓って!」 「そんなの、嫌だよ……」  リノはふるふるとかぶりを振る。  あっさりと拒絶され、彼女は顔を歪めた。  彼女の怒りを買うことはわかっていたが、嘘でもそんな誓いは立てたくない。彼女にそんなことを決められたくはないし、そもそも彼女にそんなことを強要する権利はない。  誰になにを言われようと、リノはビクトルの傍にいたい。 「あんたごときが、逆らってんじゃないわよ……」 「でも、僕は……」 「うるさいうるさい!! いいから誓えよ!! もう二度とその醜い姿をビクトル様に見せないって!! ビクトル様を見るな! 声をかけるな!」 「嫌だ」  はっきりとそう言うと、彼女は逆上した。 「ふざけんなよ! なんでお前が! なんでお前が許されるんだよ! 私のことは見てもくれないのに! なんでお前だけが!」  頭を抱えて喚き散らすその様子は狂気じみていた。  唐突に、彼女はぴたりと動きを止める。それからポケットを探り、取り出したのはナイフだ。  リノは息を呑む。 「お前が、いなくなればいいんだ……そうしたら、ビクトル様は私を見てくれる……」  彼女は呟くように言って、焦点の合わない瞳をリノに向ける。  明確な殺意を感じ、リノの体は本能的に危険を察して動き出していた。足がもつれそうになりながら教室を飛び出す。 「待ちなさいよおぉ!!」  ガタガタと机を倒しながら彼女が追いかけてくるのがわかった。  捕まれば、殺される。  リノは死に物狂いで廊下を駆け抜けた。しかし運動が苦手なリノは足も遅い。その上体力もない。  放課後の校内に残っている生徒はもう殆どいないのだろう。誰ともすれ違わない。でも職員室へ行けば、教師がいるはずだ。助けを求めるため、リノは職員室へ向かった。  彼女との距離はどんどん狭まっていく。近づく足音がリノを追い詰める。  怖い。死にたくない。だってまだ、ビクトルに好きだと伝えていない。嫌だ。死んだら、本当にもう二度とビクトルに好きだと言えなくなってしまう。そんなの嫌だ。絶対に嫌だ。  だからリノは足を止めなかった。体力は限界で、辛くて苦しくて、それでも諦めなかった。  そのとき、手前にある教室のドアが開いた。中から出てきたのはビクトルだ。  視線が合い、ビクトルは僅かに目を見開いた。  リノは止まれず、そのまま彼の前を通り過ぎる。 「リノ!?」  後ろから、リノを呼ぶビクトルの声。  でも女子生徒の足音が迫ってきているので止まることができない。止まれないけれど、意識はビクトルに向いてしまう。  だから、目の前にある階段から足を滑らせた。  ひゅっと喉が鳴る。 「リノ……!!」  ビクトルの声を聞きながら、リノは自分の体が傾くのを感じる。  反射的にぎゅっと目を閉じた。  そして、強く抱き締められる感覚。ビクトルの匂い。  それらがなにを意味するのか理解する前にリノは落ちた。 「いやあぁ!! ビクトル様ぁ!!」  半狂乱になった女子生徒の叫び声が響いた。  殆ど痛みを感じることなくリノの体はどさりと倒れた。  そっと目を開き、自分が抱き締められていることに気づく。  ハッとして慌てて上半身を起こせば、案の定自分を抱き締めているのはビクトルで、彼が庇ってくれたお陰でリノは無傷で済んだのだ。 「ビクトル様あぁ!!」  階段の上で女子生徒が叫んでいる。 「うるさい、黙れ」  倒れたまま、ビクトルは彼女に掌を向けた。その瞬間、彼女はなにかに口を塞がれたように口を噤み、なにかに体を縛られたように動けなくなる。魔法で拘束したのだろう。 「ビクトル、待ってて……!」  リノは保健医を連れてこようとした。しかしそれをビクトルが止めた。  リノの腕を掴み、ビクトルが体を起こす。 「リノ、リノ……」  ビクトルの両手がリノの頬を撫でる。  リノの名前を呼ぶ彼の声音。頬を撫でる指の感触。リノを見つめる、愛おしむような視線。  記憶を失っていたときとは違う。慣れ親しんだものだ。 「リノ、大丈夫か? 怪我は? どこも痛まないか?」  それはリノのセリフだ。それなのに、ビクトルはリノの心配ばかりする。  ビクトルの方こそ大丈夫なのかと訊きたいのに、喉が詰まったように言葉が出ない。代わりに、大きく見開いた瞳から涙が零れた。 「リノ、どこか痛いのか? どこが痛むんだ?」  心配するビクトルには答えずに、リノは彼の首筋に顔を埋めた。 「ビクトル……」  震える声で名前を呼べば、優しく背中を撫でてくれた。  リノが泣き止むまで、ずっとそうして慰めてくれた。  ビクトルの記憶は完全に戻った。記憶をなくしているときのことも全て覚えている。  リノを襲った女子生徒は処分を受け、学校を退学することになった。  リノを庇って階段を落ちたビクトルに幸い怪我はなく、病院で検査しても問題はなかった。それでも大事をとって翌日は学校を休んで安静にしていた。  その次の日は学校が休みだったので、リノはビクトルの様子を見に午前中から彼の家に行った。  部屋に入ると同時に、リノはビクトルに抱き締められた。 「リノ、リノ」  ぷにぷにのほっぺに頬擦りし、すんすんとリノの匂いを嗅ぐ。記憶をなくしていた間の触れなかった分を取り戻すかのように、ビクトルはリノの全身をまさぐる。  必死なビクトルを止めるのを申し訳なく思いながら、リノは彼の腕に触れた。 「ビクトル、大事な話があるんだ」 「大事な話……?」  ビクトルはぴたりと動きを止めた。リノの顔を見て、真剣な空気を察してビクトルは体を離した。 「わかった」  ビクトルは床に腰を下ろし、リノは彼の正面に正座した。 「あ、あのね……」  覚悟を決めていたはずなのに、いざとなると恥ずかしくてなかなか言葉が出てこない。  言い淀むリノに、ビクトルは渋い顔をする。 「もしかして、写真のことか?」 「え……?」 「勝手に大量に写真撮ってたの、怒ってるのか?」 「え、怒ってはいないけど……」  すっかり忘れていた写真の話題を出されてリノは戸惑う。  しかしビクトルはそれしか思い当たらなかったようだ。 「もう撮るなって言いたいのか? 今まで撮った分も全部燃やしてほしいとか?」  悲愴な表情を浮かべるビクトルに、リノはぶんぶんと首を横に振る。 「違うよ、写真のことは別に気にしてないから、そのままでいいよ」  気づかない内に撮られているので変な顔の写真とかもありそうで恥ずかしいが、別に処分してほしいとは思っていない。 「写真のことはいいんだ」 「そうなのか?」 「うん」 「じゃあ、大事な話って?」  ビクトルの視線は真っ直ぐにリノに向けられている。恥ずかしくて目を逸らしてしまいそうになりながらも、リノはしっかりと彼を見つめ返した。  顔を真っ赤に染め、リノはゆっくりと口を開く。 「僕、僕ね……僕、ビクトルのことが好き」  ビクトルは僅かに目を瞠った。 「今まで、ずっと、言えなくてごめん……」 「…………」 「ビクトルと、これからもずっと一緒にいたい。ビクトルが、大好き」  しっかりと気持ちを伝え、リノははにかみながら微笑んだ。  次の瞬間、リノはビクトルに押し倒されていた。驚くリノの唇に、ビクトルの唇が重なる。 「んんっ、ふ……」  貪られるような激しい口づけに、リノは懸命に応えた。唇を割られ舌を引き出され、音を立てながら吸い上げられる。口内に差し込まれた舌が余すところなく中を舐め回し、味わい尽くす。  呼吸もままならないほどの、蹂躙するようなキスだった。苦しくて涙が滲むが、リノは拒まなかった。唾液が溢れるのも構わず、されるがままに受け入れた。  やがて唇が離れると、リノは必死に呼吸を繰り返す。  はふはふと荒い息を吐くリノを見て、ビクトルは焦ったように謝った。 「悪い、リノ。やり過ぎた。大丈夫か?」 「ん……」  ビクトルの指がリノの口許を拭う。  リノは震える手でビクトルの腕を掴み、彼の指を汚す唾液を舐めた。  ビクトルが体を強張らせる。 「リノ……?」 「大丈夫、だから……。ビクトルのしたいこと、してほしい……」  ちゅ、と音を立てて指に吸い付く。 「ビクトルのこと好きだから、して……」  ビクトルの喉が、ごくりと上下に動く。 「いいのか、リノ? リノが恥ずかしがるようなこと、いっぱいしても?」 「いい、よ……。恥ずかしくても、ビクトルにされることは嫌じゃないから……好きだから……」 「リノ、リノ、可愛い、好きだ」  上気するリノの頬に、たくさんの口づけが落とされる。 「ベッドに上がって」  そう言って、ビクトルはリノを抱き上げベッドに寝かせる。絶対重いはずなのに、ビクトルはリノを軽々と持ち上げてしまう。  ベッドに沈むリノを、ビクトルのうっとりとした瞳が見下ろしている。 「はあ……リノ……」  再び口づけながら、ビクトルの両手がリノの胸を探る。  やわやわと、服の上から柔らかな膨らみを揉まれ、リノは塞がれた口から甘い吐息を漏らした。 「んふぅっ……んん……っ」  舌を絡めながら、むにゅむにゅと胸を揉みしだかれる。その刺激で徐々に乳首が勃ち上がり、揉まれる度に掌に擦れ、リノは快感に震えた。  無意識に背を反らせ乳首への愛撫をねだるリノに、ビクトルが喉の奥で笑う。  唇を離したビクトルの顔を、リノはとろんとした瞳で見上げた。  リノの蕩けた表情を見下ろしながら、ビクトルは服の上から乳首を優しく引っ掻いた。 「ひぁっ……」 「俺がたくさん弄ったから、リノの乳首、すっかりエロくなったな」 「ふぁっ、あっ」 「ほら、前はもっと小さかったのに。今は服の上からでもわかるくらいぷっくり膨らんでる」  視線を落とせば、自分の胸元が目に入る。つんと尖った乳首が服を押し上げていた。そこはビクトルの言う通り、彼に触られる以前に比べると確実に大きくなっていた。  リノの瞳は羞恥に潤む。  そんなリノを見て、ビクトルは唇の端を吊り上げた。 「こんなエロいおっぱい、誰にも見せられないな? もし見られたら、こんなに大きくなるまでいっぱい弄られたってバレちゃうもんな?」 「だい、じょうぶ……」 「なにが? リノは見られてもいいのか?」  瞳を眇めるビクトルに、リノは緩くかぶりを振る。 「ビクトルにしか、見せないから大丈夫……」 「……リノ、なんでそんなに可愛いんだ?」  真顔で言われても、リノはどう反応していいのかわからない。 「リノ、自分で服捲ってリノの可愛いおっぱい俺に見せて」  恥ずかしくて堪らなかったが、ビクトルが望むのならリノは拒まない。  服の裾を掴み、ゆっくりと捲り上げた。ぽよぽよの腹とむちむちの胸と赤く色づいた乳首が露になる。  そのみっともないリノの体を見て、ビクトルの瞳がとろりと欲にまみれた。 「リノ、俺のリノ……」 「ふぅっ……」  直接胸を揉まれ、リノはぴくんと肩を竦ませる。  胸元に顔を近づけたビクトルが、舌で乳輪をなぞった。焦らすように乳首の周りを舐め、ぷよぷよの胸の肉に優しく齧りつく。  もどかしげにリノが身を捩れば、ビクトルは意地悪く笑い、乳輪ごと乳首を口に含んだ。じゅうっと吸い上げられ、リノは快感に目を見開いた。 「ああぁっ」  嬌声を上げながら身悶えるリノの乳首を、ビクトルは口と手で愛撫する。唾液にまみれるほど舐め回され、赤く腫れたように膨らむまで指で転がされ、リノは与えられる快楽に涙を流した。 「あぁっ、あんっ、びくとるぅ……っ」 「リノ、気持ちいいか?」 「ぅんっ、気持ちいい、ビクトルに触られるの好き、おっぱいちゅうって吸われるの、好きぃ……っ」  今まで口にしなかった素直な言葉がぽろぽろと零れる。  するとビクトルはガバッと胸元から顔を離した。 「くっ……もっといっぱいリノの全身を味わいたいのに、俺がもたない……」  頬を紅潮させながら悔しそうに呟いて、ビクトルはリノのズボンに手をかける。 「脱がせるぞ」 「あっ」  手早くズボンと下着を引き抜かれ、リノの下半身は剥き出しになる。胸への刺激で頭を擡げたペニスがぷるりと揺れた。 「リノ、魔法をかけていいか?」 「え? うん」  頷くと、ビクトルはリノの下腹に掌を当てた。魔法が発動し、じわりと熱が伝わってくる。 「なんの魔法?」 「それ、普通はかける前に訊くことだからな」 「え、あ、うん」 「俺以外には、絶対にかける前に確認しろよ」 「う、うん……」 「絶対だぞ」 「はい」  念を押され、リノはこくりと頷く。  リノだって人並みに警戒心はあるのだが、ビクトルは疑わしげだ。 「今の魔法は、洗浄と、リノの中を柔らかくするためのものだ」  説明しながら、ビクトルはリノの脚を広げる。 「これで少しでも受け入れやすくなったはずだ」 「そんな魔法があるんだね」 「俺が作ったんだ」 「えっ……」 「リノに痛い思いはさせたくないからな」  リノは真ん丸い瞳でビクトルをまじまじと見つめた。 「作ったの……ビクトルが、このために……?」 「俺が作る魔法は、全部リノが関わってる。リノに使うために作ってるからな」 「そうだったの……?」  はじめて知る事実に呆然としている間に、ビクトルはボトルを手に取る。その中身を掌に垂らした。 「柔らかくはしたけどまだ足りないから、これから指で広げるからな」 「え? あ、うん……?」  ぼけっとしているリノの後孔に、粘液を纏ったビクトルの指が触れた。突然のことに驚いて、リノはびくんと肩を竦める。 「はっ……あっ……」 「リノ、痛かったら言えよ」 「んんっ……」  魔法によって柔らかくなった肉筒は、埋め込まれる指を痛みもなく受け入れた。感じるのは違和感だけだ。 「大丈夫か?」 「うん、へーき……」  リノの反応を見ながら、ビクトルは指を動かした。内部を探るように指を回し、粘液を塗り込んでいく。指を増やし、丁寧にほぐしていった。  その途中で一際敏感な箇所を暴かれ、何度もそこをまさぐられる。 「ひあぁっ、そこ、だめ、あっ」 「だめ? なんで?」 「んあっ、あっ、そこ、ぐりぐりされると、びくびくって、なるぅっ」  強烈な快感にリノは翻弄された。がくがくと腰が揺れ、それに合わせて勃起したペニスがぷるぷると動く。  蜜を滴らせるペニスに、ビクトルは舌を這わせた。 「ひぁうっ」  裏筋を舐め上げられ、鈴口を舌でほじられる。その間も、後孔を掻き混ぜる指は止まらない。リノのむちむちの足が、びくんびくんと跳ね上がる。 「あんっ、だめ、だめ、びくとるぅっ」 「んん?」 「もう、やっ……一人で気持ちよくなるのやだぁ、ビクトルと一緒に気持ちよくなりたいよ……」  涙を浮かべて訴えれば、ビクトルの瞳が蕩ける。 「リノ、可愛い、好きだ。一緒に気持ちよくなろうな」 「んうっ」  差し込まれていた三本の指が引き抜かれる。ぽかりと開いた後孔に、熱を持った肉塊が押し当てられた。 「リノ、辛かったら言ってくれ」 「はっ……うん……」  ぐりっと、先端がめり込む。太くて長い肉棒が、ゆっくりと捩じ込まれていく。 「ひ、はっ、はあっ……あっ」 「リノ、大丈夫か? 痛くないか?」 「ん、うん……」  リノを気遣いながら、ビクトルは自身を埋め込んでいった。  時間をかけて、全てがリノの体内に収められた。  どくどくと脈打つビクトルの鼓動を体の奥で感じ、リノは無意識にお腹を撫でた。 「すごい……僕のお腹、ビクトルでいっぱいになってる……」 「っ…………」  ぼうっとした状態で見上げれば、ビクトルはギラギラと情欲の滲んだ双眸でリノを見下ろしていた。 「僕の中、気持ちいい……?」 「ああ」  即答され、リノは顔を綻ばせた。 「僕も、気持ちいい……。ビクトルと繋がるの、嬉しい……」 「リノ……っ」  感極まった様子で、ビクトルがリノに口付けた。  リノの唇をはむはむと食みながら、ビクトルはゆっくりと腰を動かす。 「ふぅっ……んん……っ」  体内を満たす肉棒が、にちゅっにちゅっと腸壁を擦る。その動きは徐々に大きく速くなっていく。 「ふあっ……はっ、ん……んうぅっ」  じりじりと引き抜かれ、敏感な膨らみを擦り上げながら再び突き入れられる。内部を抉られる快感に、触れられていないペニスから蜜が零れてぽたぽたと下腹に飛んだ。 「リノ、リノ……っ」  ビクトルは掠れた声で何度もリノの名前を呼ぶ。  額に汗を浮かべ、頬は紅潮し、リノを見つめる瞳は強い熱を孕んでいる。  その視線にさえ感じて、リノはぞくぞくと震えた。爪先を丸めて力を入れ、全身を突き抜けるような快楽に耐える。  気を抜くと、快感に意識が飛びそうになる。それが怖くて、必死にビクトルにしがみついた。 「あぁっ、あっ、びくとるぅっ」  眦に浮かぶ涙を、ビクトルが優しく舐め取る。  そのままリノの顔にキスを落としながら、ビクトルは下肢へと手を伸ばした。限界を訴えているリノのペニスを掌に包み込む。 「あんっ、そこ、ごしごししたらもう出ちゃうよぉっ」 「いいぞ、ほら」 「あっ、あっ、あっ、あっ、~~~~っ!」  射精を促すように扱かれ、リノはびくっびくっと震えながら絶頂を迎えた。リノの体の上に精液が飛散する。  達すると同時に、陰茎を咥え込んだ肉筒が痙攣し内部を締め付けた。絞り上げるようなその動きに、ビクトルも精を吐き出す。  どぷどぷっと、内奥に熱い体液を注がれた。  呼吸を整えながら、体の奥にじんわりと熱を感じる。  体内をみっちりと満たしていた陰茎を引き抜かれると、なんだか寂しくて物足りないような感覚になった。リノは無意識にお腹を摩る。 「リノ、痛むのか?」 「ううん。ビクトルでお腹をいっぱいにされるの嬉しかったから、なくなっちゃうと少し寂しいなって……」 「…………は?」 「あっ、変なこと言ってごめん」  ビクトルに真顔で凝視され、リノは顔を赤くして謝った。  恥ずかしさを誤魔化すように笑うリノを、ビクトルは手早くうつ伏せにする。  いきなり体勢を変えられ、リノは困惑した。   「えっ、あの、ビクトル……?」 「リノ、そんなに俺のちんこ美味かったのか?」 「は……え…………!?」 「だったら、リノが満足するまで食わせてやる」 「え、あ…………っは、あああぁっ……!」  ずぶずぶずぶっと、背後から一気に楔で貫かれた。  突然のことに驚きはしたが、痛みはない。リノはまだ事態を理解できていないのに、体は悦んで陰茎を受け入れ、味わうように絡みつく。 「ふ、え……はっ、あっ、ビクトル……?」 「好きなだけ、食っていいからな」 「んああぁっ、あっ、そんなにぐちゅぐちゅしちゃ、おかしくなっちゃうよぉ……っ」  制止の声は喘ぎ声に塗り変わり、リノは本当に腹が膨れるほど彼の欲望を味わわされた。  執拗に何度もビクトルに愛され、結果歩けなくなったリノは彼の部屋に泊めてもらうことになった。  疲れ果ててくたくたのリノから、ビクトルはぴったりくっついて離れない。背後から腕を回し、リノの体を撫でたり揉んだりしている。  ベッドの上で彼に抱き締められたまま、リノは気になっていたことを尋ねた。 「ビクトル、いつ写真撮ってるの?」 「ん?」 「僕、撮られた覚えないよ?」  百冊以上に及ぶアルバム。全て隠し撮りだとしても、さすがにそんなに撮られていたら気づくのではないか。しかし、リノはビクトルに写真を撮られた覚えは一度もない。 「ああ、あれは魔法で念写したものだ」 「そうなんだ。どういう仕組みなの?」 「俺自身に魔法がかかってる。俺の目に映したものがフィルムとして脳に記憶されて、その中から選んで専用の紙に念写する」 「ビクトル自身がカメラってこと?」 「そうだ」  だから写真を撮られた記憶がないのにあんなに写真があるのか、とリノは納得した。  その魔法は今もかかっているのだろうか。もしかして、先程の行為の最中にも魔法はかかっていたのだろうか。あのときの自分の姿がビクトルの脳に記録されているとしたら恥ずかしい。でもビクトルも、わざわざあんなはしたないリノの姿を写真として残しておくようなことはしないだろう。きっとみっともない顔ばかりしてたはずだ。  リノは知らない。  まさにその行為の最中の写真が後日極秘コレクションに加えられていたことを。これからビクトルと体を重ねる度、その極秘コレクションが増えつづけることを。体を重ねるようになってから写真の量がどっと増え、アルバムが収まりきらなくなり収納スペースが拡張されていくことを。  リノは知らなかった。

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