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第4話

3. 「おっはよー! ……って、要どうしたんだよ? 元気ねえな」 「痛てぇな、何だ白井かよ。……おはよ」  翌日、昇降口で上履きに履き替えていると、後ろから白井にどつかれた。 「何かあったのか?」 「んー、ちょっとね」  俺は言葉を濁した。静也の事を他人に話そうとは思っていなかった。静也について説明するのも面倒だったし、あれこれ詮索されるのも嫌だった。  何より、あんな態度をされるなんて思ってもみなかったから、すっごいショックで昨日の夜なんて全然眠れなかったのだ。そんな話を白井にしようものなら、どんないじられかたするか分かったもんじゃない。黙っておくのが正解だ。 「……もしかして恋の悩みか? 俺にはこっそり相談してもいいんだぞ?」  白井はにやけて、そう言った。 「恋の悩みね……そんな簡単なもんだったら良かったんだけどな」 「えっ? 何それ? どういう意味だよ?!」  俺は白井の相手をするのが面倒になって、独り言のようにそう言うと、まだ上履きに履き替え中だった白井を置き去りにして教室へ向った。  1時間目は数学だった。教師の自己紹介と、これからの授業の進め方とかなんとかの説明があって、すぐに勉強が始まる。俺は教科書に目を落としていたが、頭の中ではずっと違うことを考えていた。  静也のことだ。  そりゃ、中学の3年間、こっちからなんの連絡もせず、音信不通だったのは俺が悪い。数回やり取りした手紙は、全部静也から送ってくれたものだったし、俺は返事をなかなかしなくて、結局俺が連絡を途絶えさせてしまったようなものだった。……あいつが怒るのも無理ないと思う。だけど、わざわざ挨拶に行ったんだから、ちゃんと応対してくれても良かったんじゃないのか?! あんな……冷たい態度で拒否するんじゃなくて。もうちょっと友達らしい態度取ってくれたって、バチは当たんないと思うんだけど。……俺は静也を親友だと思ってたのに。  授業が終わり、教師が教室を出て行くと、俺はすぐに立ち上がって隣の3組に行った。昨日と同じ入り口のすぐ近くに座ってるヤツに声を掛ける。 「岡本いる?」 「何? 岡本? ……ああ、あそこ。窓際の一番後ろにいるよ」 「サンキュ」  教室の一番隅。窓際の一番後ろの席に静也は座っていた。窓の外をぼんやりと眺めている。教室の中は、生徒達の声や笑いで賑やかなのに、静也の周りだけが、まるでバリアが張られたように静かだった。 「……静也」  俺の声に驚いたように、静也はゆっくりとこちらに顔を向けた。 「……何?」  昨日と同じ態度だ。誰も寄せ付けないような冷たい声と表情。 「あっ、あのっ……俺のこと忘れた?」  昨日の夜、寝る前に何度も何て言おうかって、頭の中でシュミレーションしたのに、やっぱり静也の冷たい態度を目の前にしたら、どうしていいのか分からなくなってしまった。俺はあたふたしながらも、ようやくそれだけを口にする。 「忘れてないよ」 「……?」  静也は俺をじっと見るとそう答えた。俺はてっきり忘れられてたんだと思ってたから、この答えにどう返事をしたらいいのか戸惑ってしまう。 「斉藤要だろ? 昨日、俺の家の前ででかい声で名乗ってたじゃないか」 「あ……そうだったよな……」 「それで? 俺に何の用?」 「いや……その、久しぶりだから挨拶しようと思ってさ……」  俺の言葉に静也は迷惑そうな表情を浮かべた。 「何のために?」 「なっ……何のためって……俺たち、友達だっただろ?」 「友達って、小学校の頃の話だろ?」 「そうだけど……でも、俺ずっと静也を親友だと思ってたから……」 「親友? 昔の話持ち出して、今更そんなこと言われても困るんだけど」 「こ、困る?!」 「そうだろ? それとも何? 今でも親友とか言いたい訳?」 「……」  俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。まさか、こんなに冷たい仕打ちを受けるとは…… 「もう話、それで終わり? 次の授業始まるよ」  静也はちらり、とこちらを見た後、俺に興味を失ったように、鞄から教科書とノートを取り出していた。

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