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第5話
4.
ランチタイムの学食。俺はカレーうどんをすすっていた。特にすっごい美味いって訳じゃないけど、まあまあな方だと思う。中学と高校は同じケータリング会社が学食を担当してるから、選べるメニューは中学時代とあんまり代わり映えしない。馴染みの味だと言ってしまえばそれまでだけど、少々飽きが来てるのも確かだ。
「なあ、要。お前ちょっと変だぞ? 大丈夫か?」
目の前の席でメロンパンを食べていた青山が顰め面して尋ねてくる。
「そうか? どこが変なんだよ」
「要ちゃんは、お年頃だからお悩み中なんだよ」
青山の隣に座っていた白井が含み笑いしながら言った。
「え? 何それ? 恋の悩みとか?!」
俺の隣に座っていた武内が白井の言葉に食いつく。
「恋の悩みねえ……どこの誰? どこで知り合ったんだよ?!」
「武内、いいところ突くねえ。それ知りたいよなあ。そもそも男子校育ちの俺たちが、一体どこでどうやって女の子と知り合えるのか! そこが一番重要な問題なんだよ……」
大真面目な顔で白井は腕を組んで語り始める。
「分かる! 白井の言う通り! 俺もそれ知りたいよ。……って言うかさ、高校生になったんだから、これからはバイトも出来るじゃん? バイト先での出会いとかありそうだよな」
「そうそう、バイト先ってのがあるよな。……って、要もしかして、お前もうバイトやってんの?」
「バイトなんかしてないし、別に女の子と知り合ってもいねえよ」
俺はカレーうどんの最後の1本をちゅるんと食べ終えると、うんざりしたように言い返した。まったく人の悩みをネタにして盛り上がるとか、ホント止めてくれ。
「じゃあ……恋の悩みって……おい、高柳、お前が読んでる漫画にそんなのあったよな?」
テーブルの誕生日席に座り、黙ってA定食を食べていた高柳に向って、武内が話しかける。
「……何? 漫画って」
天然パーマな上に長めにしているうっとうしい前髪の隙間から覗き込むようにして、高柳は視線をこちらを向けると面倒臭そうに口を開く。
「ほら、お前この間読んでただろ? 何だっけ? えーと、SLだっけ?」
「武内、お前いい加減にしろよ。SLは機関車だ」
高柳は冷静に言い返す。
「え? ああ、そうだっけ? じゃあ何? SM?」
「馬鹿か? それはヤバいやつだ」
「やばい? 何がやばいんだ? ……まあ、何でもいいよ、お前が読んでたやつだよ」
「BLだろ?」
「……何それ?」
俺は会話の意味が全然分からなかった。SLとかSMとかBLとか、一体何の話だ?
「BLっていうのは、Boys Love……つまり、男同士の恋愛を描いた漫画や小説のジャンルのことだよ」
「へえ……そんなのあるんだ。みんなよく知ってるなあ」
俺は純粋に感心してそう答えたのだが、テーブルに座っている全員からの視線を感じて口を噤む。
「みんなよく知ってるなあ……じゃねえよ。要、お前の好きなヤツってこの学校の中にいるのか?!」
白井が身を乗り出して聞いてくる。
「えっ!? な、何言ってるんだよ?! どうしてそういう話になってるんだ? べ、別に俺は誰も好きじゃないし……」
「斉藤は恋愛の悩みを抱えてるんじゃないの?」
高柳は至極冷静に事実の確認をしてきた。
そうだよ、そこなんだよ。どうしていつの間に、俺が恋愛の悩みを抱えてるって話になってるんだよ?!
「……いや、俺はそんな悩みは全然抱えてなんかいないし、そんな話するぐらいなら、俺に誰か彼女を紹介してくれって感じなんだけど……」
「ぐあーなんだよ! もし要に彼女が出来たら、その伝手使って、俺も女の子紹介して貰おうと思ってたのよぉ」
武内が頭を抱えて残念そうに言う。
「お前もそれ狙ってたのかよ! 俺もだよ……」
白井も同じようにガックリした様子で頭を垂れる。
「何だよ、お前ら、みんな人任せで。自分の力で彼女ゲットして来いよな」
俺は呆れ果ててそう言うと、トレイを手に立ち上がった。
「もう行かないと、午後の授業始まるぞ」
「へいへい。……腹いっぱいで眠くなりそ……」
青山は欠伸を噛み殺しながら、そう言った。
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