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第9話
8.
俺は必死に静也の家まで走り続けた。このままうやむやにして終わらせるのは、やっぱり気持ち悪かった。もし本当にもう二度と俺と友達になりたくない、って思われてたとしても、俺は静也に謝りたかった。子供だから許されるなんてことはない。俺は静也の気持ちに気付かなくて、彼をひどく傷つけたのだ。それなのに、今更「もう一度、友達になろうよ」なんて暢気な顔で言われたら、そりゃ腹が立つのは当然だろう。
――俺は馬鹿か……
恥ずかしすぎてどう気持ちの整理をつけたらいいのか分からない。
静也の家の前まで辿り着き、ドアベルを鳴らす。
一度目、二度目……出て来ない。三度目を鳴らそうと人差し指を当てたところで、ドアが少しだけ開かれた。
「……もういい加減にしろよ」
ドアの隙間から漏れる、静也の怒ったような声。
「ごめん! 静也、俺、おまえにすごくひどい事した。めちゃくちゃ傷つけた……それなのに全然気付いてなくて……自分に都合が良い事ばっかり言って、本当に悪かったよ。ごめんな……手紙の返事書かなくて」
俺は思いきり頭を下げて謝った。ここで躊躇したら、二度とチャンスはないような気がした。
ドアが広く開けられる気配。視線を上げると、目の前に静也がいた。
「……今更何言ってるんだ、って思われても仕方ないけど。でも謝らせて。……返事書かなかったなんて、最低だよな……静也、あんなに寂しい思いをしてたのに。気付いてやれなくて、本当にごめん」
「……要」
「四つ葉のクローバー……探してたのは、おばあちゃんの為だったけど、それは俺と別れたくなかったからだったんだろ? おばあちゃんが治らなかったら、引っ越さないといけなかったから……そしたら俺と離ればなれになるから。それなのに、俺……一緒に探しもせずにサッカーやろうなんて言って」
「……思い出したの?」
「うん……少しだけ」
「入ってよ」
静也はドアを開けたまま、家の中に入っていった。俺は急いで中に入ると、スニーカーを脱いで家に上がる。家の中の様子は子供の頃、遊びに来た当時とあまり変っていなかった。懐かしくてキョロキョロしながら、静也の後をついて階段を上がっていく。
「お母さんいないの?」
「いないよ。この家に今住んでるの俺だけ」
「え? お母さんいないの? 家族のみんな、どうしたの?」
「みんなまだ、向こうの家にいるんだ。俺だけ高校が始まるから、先にこの家に戻って来たんだよ。来月母さんと父さんはこの家に戻ってくるけど、姉さんは向こうの大学行ってるから、マンションに一人暮らし」
「……そうなんだ」
静也の部屋に入る。
小学生の頃、何度も遊びに来た部屋。当然だけど、当時遊んだおもちゃなんかはもうない。高校生らしい部屋、って言えばいいのかな。あまり物は置いてなかった。シンプルで殺風景な部屋。どこか寂しいような、そんな感じを受ける。
「その辺、適当に座って」
静也は自分の机の椅子に座った。俺はベッドの上に腰掛ける。
「何か飲む?」
「……いや、いいよ。それより、静也一人でここ住んでるって、飯とかどうしてんの?」
「コンビニ」
「それじゃ、体に悪いよ。俺んち来いよ。母さんも喜ぶし」
「……」
「あ、ごめん……また静也の気持ちを聞かないで、俺の意見ばっかり押しつけた」
俺は慌てて謝る。
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