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第10話

「要……俺の手紙、まだ持ってる?」 「持ってるよ。大事に取ってた……でも受け取った時に一度読んだきりだったんだ。さっき、久しぶりに読んだ」 「それで謝りに来たのか」 「うん……俺、いつも自分の事ばっかりだったよな。静也の気持ちなんて、これっぽっちも考えてなかった」 「……俺さ、要からの返事待ってたんだよ。引っ越し先の学校、悪い奴はいなかったけど、仲良くなれる奴もいなかった。俺はずっと何となく一人でいて、ずっと寂しかった。要と会って話したかった。だけど会うのは無理だから、せめて手紙で会話出来たらなって思ってたんだ。でも返事は結局来なくてさ。俺は忘れられたんだな、って悲しかった」 「静也……」 「それなのに、こっち戻って来たと思ったら、何もなかったみたいな顔して俺の前に現れて、また友達になろうぜ、なんて言われて……そんなの、簡単に受け入れられるかよ。そういう無神経さに腹が立って仕方なかった。寂しくて悲しくて悩んだのは俺一人だけだったんだ、って思い知らされて」  静也は俺の方を向いた。今にも泣きそうな表情だった。 「ごめんな……本当、俺すごい脳天気すぎるよな。静也がそんな気持ちでいたのに、何も気遣ってやれなくて」 「もういいよ。要が昔を思い出して、謝ってくれたら気が済んだ」  静也は深呼吸するように、大きく息を吸った。 「手紙も捨てられてなかったし」 「捨てないよ! ……俺、手紙とか書くの苦手だから、どう書いたらいいのか分からなくて、それでそのうち書くタイミングをなくしちゃったんだ」 「そっか……まあ、子供なんてそんなもんだよね。……でもさ、それでも俺は要は仲が良い友達だと思ってたから、信じたかったんだ」  俺は俯いた。俺が静也を親友だと思っていたのと同じように、静也も俺をそういう存在だと思っていてくれたのに、その信頼を裏切ったのは俺の方だったのだ。 「……手紙に挟んだ四つ葉のクローバー、まだ残ってた?」  ぽつり、と静也が呟く。 「うん。白詰草の花も」 「時間差でラッキーが訪れたってことなのかな」  静也はふっと笑みを浮かべた。子供の頃と同じ、どこかはにかむような可愛らしい笑顔。 「……しつこいってまた怒られそうだけど、俺たち友達に戻れる?」 「要の心がけ次第かな」 「あんまり無理難題吹っかけないで欲しいんだけど」 「しないよ。……俺の気持ち、少しは考えて欲しいって、ただそれだけ」 「大丈夫……二度と同じ間違いはしないつもりだから」 「つもり? ずいぶん自信がないんだね」 「だって、静也のこといっぱい傷つけちゃったし……また同じ間違いしたら、言ってくれる?」 「遠慮せずに怒るよ」  俺は心底ホッとして、体全体の力が抜けるような感覚を覚えていた。静也が俺の謝罪を受け入れてくれなかったら、本当にここまでだと諦めていたから余計にだった。 「良かったー!」 「何が?」 「静也に友達には二度となれない、って言われたらどうしようって思ってたから」 「少しは俺の気持ちも分かっただろ?」 「……すごい理解出来た」 「じゃあ、同じ間違いはするなよ」 「うん」 「それより、もうこんな時間だぞ。お前の母さん心配してんじゃないの?」  壁掛け時計を見たら、7時を過ぎていた。 「あ、やべぇ。もう夕食の時間だ! 帰んないと」 「俺もコンビニに弁当買いに行くから、そこまで一緒に行くよ」  慌てて立ち上がった俺を、静也は見上げて言った。 「やっぱり俺んち来ない? 一人ぐらい急に増えても大丈夫だと思うけど……」  俺は言ってから、突然心配になって付け加える。 「静也が嫌なら無理にとは言わないけど……」 「行ってもいいの?」  予想とは反対に、静也は柔らかい口調でそう尋ねる。 「いいに決まってるよ! 来いよ! 母さんも久しぶりに会いたいって思ってるだろうし。……何なら、俺んち泊まっていってもいいぞ?」 「要、テンション上がり過ぎ。さすがに今日は泊まるの遠慮するよ。明日は学校あるだろ? また休みの前の日にでも行く」 「じゃあ、徹夜でゲームしようぜ。俺、新しいゲーム機買って貰ったんだ。お前、ゲーム好きだっただろ?」 「まあね。じゃあ、金曜の夜に泊まりに行くよ。今日は夕飯だけご馳走して」  俺は嬉しすぎてにやにやが止まらなかった。何だか一気に時間があの頃に戻ったみたいだった。 「……静也、ありがとうな」 「ん?」  部屋を出る寸前、俺は静也の背中に向って礼を口にした。静也は振り返って、ちょっとビックリしたみたいな表情を浮かべた後「いいって」と一言だけ答えた。

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