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第7話

7.  長いと思っていた夏休みも、終わってしまえばあっという間だった。  9月と言えば季節も変わり、秋の筈なのに、気候はいまだ夏のままだ。暑くてたまらない。それでも暑いから学校を休むという選択肢はないので、仕方なくまた学校へ通う。  始業式のこの日は全校集会があるので、蒸し暑い体育館に生徒達がすし詰め状態だった。ただでさえ暑いのに、余計に暑苦しい。俺は息が詰まって倒れそうになりながらも、何とか列に並んで退屈な校長の話に耳を傾けていた。 「……ここで、とても残念なお知らせをしなくてはなりません」  校長の声のトーンが変る。 「1年4組の副担任、そして現国を担当してくれていた香山(かやま)先生が、夏休み中に病気でお亡くなりになられました。とても優秀な教師で指導も熱心なことから生徒達にも慕われており、私も個人的に信頼していたので残念でなりません……」  俺はぼんやりとその言葉を聞いていた。そして、何故だかは分からないけど、香山先生はあの人だと直感した。 ――あの人、香山っていう名前だったのか。 「……香山先生、ガンだったんだって。若いから進行が早くて、見つかった時は手遅れだったらしいぜ」 「だからしばらく休んでたのか。夏休み中、入院するって聞いてたけど、まさか死んじゃうなんて思わなかったよな」  どこからか生徒達が口にする、そんな話が耳に飛び込んできた。  しばらくの間、俺の前に姿を見せなかったのは、休んでいたからだった。そして、あの人は、もう二度と放課後俺の前に現れることはない。 『きみはね、俺の初恋の人に似ているんだ』  あの人が、放課後俺のところへ来てくれたのは、本が好きだったからじゃない。俺が彼の初恋の人に似ていたからだ。だから、あの人は俺に会いに来てくれていたんだ。 ――なんで? 何で今頃気付くんだよ……  俺の目から涙が溢れ出た。 ――俺はあの人の名前も知らなかったのに。 「……ううっ」  俺は顔を両手で覆った。涙が止まらない。嗚咽をこらえたけど、立っていられなかった。足元から崩れ落ちるようにして、その場にしゃがみ込んでしまう。 「おい、岡本どうしたんだよ? 大丈夫か?!」  俺の後ろに立っていた生徒が驚いて話しかけてくる。その様子に気付いた前に立っている生徒が手を挙げて「先生! 岡本くんが具合悪いみたいです!」と言った。 「暑いから具合悪くなっちゃったんじゃね?」 「貧血か?」  俺の頭の上で生徒達がやかましく喋り続ける。 ――止めろ。放っておいてくれ。  胸が苦しくて苦しくて堪らない。どうしたらいいのか分からない。 「大丈夫か? 誰か、岡本を保健室に連れて行け」  担任の声が近くでした。でも、俺は顔を上げられなかった。ただ、流れ出る涙を止められずにじっとその場で踞っていた。 

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