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第2話

2.  私立鷺ノ宮学園(さぎのみやがくえん)。幼稚園から大学まである、地元では有名な学校だ。僕は加賀公彦(かがきみひこ)。高等部の2年生で、今期の生徒会長に就任したばかりだった。高等部の生徒会は毎年6月に選挙が行われ、生徒会長以下執行役員が決まる。そして7月後半、夏休みに入って1週間ほど経った頃に行われる恒例の行事があった。それが生徒会役員参加の旅行である。  旅行先は学園が保有する海辺の宿泊所。宿泊所と呼ぶには豪華で、ちょっとしたホテル並みの施設である。普段は先生方の研修や部活の合宿などに利用されていた。そこで新生徒会執行役員の懇親を深め、これからの活動の方針を決めるという名目で行われている旅行だった。 「えーと、では全員揃ったところで、生徒会長からの挨拶があります」  宴会場のひな壇に立って、進行役を務めているのは、書記の2年生、立花千明(たちばなちあき)。千明は僕にマイクを差し出した。 「はい、公彦の番」  にっこりと笑う千明。すごく可愛らしい笑顔だ。彼は自分の童顔を気にしていて、よく中学生に間違えられるんだ、と怒っているが、小学生に間違えられないだけ、まだましなんじゃないかって僕は思っている。 「……今期の生徒会長に就任した、加賀公彦です。鷺ノ宮学園の伝統である自由な校風を活かし、さらには新しい風を取り入れるために、我々生徒会は日々活動していかねばなりません。どうか執行役員はその自覚を持って頑張って下さい。これから1年間どうぞよろしくお願いします」 「よっ、生徒会長!」  智志が囃し立てるような声を上げる。 「からかうのはよせ」 「からかってなんかいないよ。ここには身内しかいないんだし、そんなかしこまった挨拶はそこまでにして、もっと気楽にいこうぜ。旅行中は無礼講なんだろ?」 「……あんまり羽目を外しすぎるなよ」 「はいはい、生徒会長どの。分かってるって」  僕はひな壇を降りると、昼食が用意してある大きな丸テーブルに座る。生徒会執行役員が全員まとまって座っていた。  僕の隣は副会長の成瀬智志(なるせさとし)、その隣は先ほど進行役を務めていた書記の立花千明。千明の隣には会計の友野誠(とものまこと)と運動部代表三ツ谷知則(みつやとものり)、文化部代表の五十嵐徹(いがらしとおる)。そしてその隣に小さくなって座っているのは、副書記の1年生、斉藤要(さいとうかなめ)と副会計の岡本静也(おかもとしずや)だった。 「岡本は急だったから、今回は大変だっただろう? すまなかったな」  智志は昼食に用意されていた松花堂弁当を食べながら、1年生の役員を気遣うように言った。 「いえ……そんな謝ってもらう程のことじゃありませんから……」  岡本は恥ずかしそうにそう答えて俯く。彼は名前の通り、静かな印象の学生だった。 「そもそも、俺が突然推薦しちゃったからで、先輩が謝ることじゃないですよ。……ごめんな、静也」  岡本の隣に座っている斉藤要は、肩をすくめてそう言った。彼らは幼馴染みなんだそうだ。そう聞くと、道理で二人の間柄にはどこか打ち解けた雰囲気があった。  そもそも、岡本は当初は生徒会執行役員には選ばれていなかった。副会計に選ばれていたのは別の生徒だったのだ。ところが、彼の父親が突然海外転勤になり、一緒についていくことになってしまった為、副会計の椅子が空いてしまったのだ。その話を聞いたのは、すでに夏休み直前で、これから改めて再選挙とはいかなかった。どうしようか、と悩んでいると、副書記の斉藤が岡本を推薦してきた。我々としては、椅子を空席にするよりも、誰か信頼に足るだけの人物をすぐに据えた方が良いだろうと判断し、斉藤の推薦を受け入れ、岡本に副会計就任を依頼したのだった。 「でも、お陰で海に旅行に来られたんだし、静也だって良かっただろ?」 「う……うん、まあね」  岡本は先輩たちを前にして、旅行に来られたのを素直に喜んでいいのかどうか、迷っている風だった。少し顔を赤くすると、俯いて黙々と食事を続ける。僕はそんな彼の態度に好感を持っていた。……どこか、僕自身に似ている気がして。 「ねえ、食事の後はどうするの?」  千明が尋ねてくる。

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