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第3話
「午後はレクリエーションで、ビーチバレーする予定なんだけど……」
僕は手元の予定表を見ながら答える。
「へえ、ビーチバレーか。面白そうだな」
運動部代表の三ツ谷が張り切った声を出す。普段はサッカー部の部長をしているだけに、運動は得意中の得意、と言いたげだ。
「……俺、運動はパスしたいな。せっかくだから、海の絵描いていきたいんだけど。全員強制参加?」
文化部代表の五十嵐は乗り気ではないようだ。彼は美術部長をしている。荷物が多かったのは、スケッチをするために画材を持ってきていたからのようだ。
「強制参加じゃないよ。もし絵描きたいっていうんだったら、そっち優先しても構わないから」
僕の答えに五十嵐はホッとした顔をした。
「サンキュ。文化祭に出す絵を迷ってたんだけど、海見たら急にやる気出ちゃってさ。助かるよ」
「で? ビーチバレーは誰が参加?」
箸を置いた智志が尋ねる。
「はいはいはい、俺参加!」
友野が張り切って手を挙げる。
「他は? 参加する奴、挙手して」
智志の問いに、三ツ谷と斉藤が手を挙げた。
「静也、やらないの? 先輩の言うことには従った方がいいんじゃないか?」
斉藤は隣に座る岡本に小声でそう言った。岡本はちょっと迷った後、仕方ないなという顔をして手を挙げた。あまり乗り気ではないらしい。
「千明と公彦は? 生徒会の結束を固める良い機会だと思うんだけど?」
智志は僕たちの方を向いて言う。僕と千明は顔を見合わせてから、嫌々手を挙げた。正直僕もあまり乗り気ではなかった。レクリエーションの一環で、ビーチバレーを選んだけど、それは他に良さそうな選択肢がなかったからだ。出来れば冷房が効いた部屋で、のんびり過ごす方が僕の性には合っている。
「もうっ、暑いから僕あんまり運動したくないのになあ」
千明は手を挙げた後も、ぶつぶつと文句を口にしていた。それを見た三ツ谷は「千明、後でアイス買ってやるから参加しろ」と言う。それを聞いた途端、千明の顔が輝いた。
「うそ? ほんと? みっちゃんアイス買ってくれるの?!」
「嘘じゃないよ。その代わり、お前は俺と同じチームな。でもって、真剣にプレイしろよ?」
「分かった! やるやる! 真剣にやるね!」
いきなりテンション爆上がりの千明はガッツポーズをして立ち上がる。
「アイスぐらいでこんなやる気出してくれるんだったら、安いもんだよな。……公彦にも買ってやろうか?」
隣に座る智志は僕の耳元でそう囁いた。彼の息が耳をくすぐる。思わず背筋がぞくっとして、顔が赤くなるのが分かった。
「いっ……いらないよ。そんなの買って貰わなくったって、ちゃんとやるよ!」
「なにムキになってんだよ……」
「ムキになんかなってない!」
僕は立ち上がった。テーブルに座ってた全員がびっくりした顔で僕に注目していた。
「あ……」
「公彦どうしたの?」
千明が目をまん丸にして僕を見つめている。
「ど……どうもしないよ。あの……1時半にビーチに集合だから……よろしく」
僕はそれだけ言うと、部屋に戻ろうとテーブルを離れた。後ろで三ツ谷が「おいおい、公ちゃん今日はあの日か?」と言っているのが聞こえてきた。
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