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第4話

3.  照りつける太陽が眩しい。足元からも熱気が立ち上がってきて、息苦しくてたまらない。 「おい、そっちボール行ったぞ!」  智志の声がして、目線を上げるとピンクのビーチボールが飛んでくるのが見えた。僕は何とか打ち返す。ボールはひょろひょろと力なく、何とかやっとという具合にネットを越えて、ギリギリのところにぽとりと落ちた。 「うわっ、取れないよ!」  千明は走り寄ったが、ボールはそれよりも先に地面に着いていた。 「公彦、魔球使うの止めてよ!」 「あんなの魔球じゃないよ……」  僕は苦笑した。力がないから、あんなよろよろな球しか打ち返せないだけだ。 「僕たちのチームが勝ったら、みっちゃん僕に2つアイス買ってくれるって約束したんだよ。だから、絶対に負けられないんだ。公彦、覚悟してよね!」  千明は僕に向ってびしっと人差し指を突きつけると、宣言した。それを聞いた智志は僕の方を向くとにやりと笑った。 「じゃあ、俺たちが勝ったら、公彦が今一番欲しい物買ってやるよ。どうだ?」 「……え?」 「だから、本気出せよ」  そう言うと、智志は僕に笑顔を向ける。 ――僕は何も買ってなんか欲しくない……僕が欲しいのは、たった一つだけ。  智志は、思い切りジャンプしてサーブを打った。 ――格好いい……  僕は智志の姿に見入る。そう、僕が欲しいのは、視線の先にいるこの人の心。 「うわー! ずるい! 智志、元バレー部じゃん! 本気出したら負けちゃうよ!」  千明はレシーブで受け止めようとしたが、そのまま体勢を崩して砂の中に突っ込んでしまった。 「おい、千明大丈夫か? お前……砂まみれ……」  後方にいた三ツ谷が駆け寄って、千明に手を貸して立ち上がらせるが、砂だらけの顔を見てぷっと吹き出す。 「……みっちゃん、ひどい。笑うことないじゃん」 「だって、お前……その顔……」 「もうっ! 僕だけこんな目に遭わされて割に合わないよ! 勝ったらアイス3個だからね!」 「はいはい……」  その後試合は良い勝負となり、1点差で千明・三ツ谷組が勝った。 「やったー! みっちゃん、アイス3個買ってよね!」 「お前、一度に3個食うつもりか? 腹壊すぞ?」 「まさか。三回に分けて買って貰うんだよ。次の試合まで、僕たち休憩だろ?」 「ああ。お前たちは次の試合まで休憩だよ」  智志は汗をタオルで拭きながら答えた。 「それじゃ、ちょっとアイス買いに行ってくるね! ほら、みっちゃん早く早く!」  千明は三ツ谷と連れ立って、近くの売店まで行ってしまった。  僕はペットボトルの水を飲みながら、砂浜にしゃがみ込む。もう立ってるのも辛いぐらいだ。僕は暑いのが元々苦手だった。 「公彦も休憩してていいぞ。俺はこの後、斉藤と組んで試合続けるから」 「分かった」  五十嵐が絵を描くからと言って抜けた分、人数が奇数になってしまったので、智志が代わりに続けて試合に加わることになった。相手チームは岡本と友野。生徒会会計チームだ。智志は副書記の斉藤と組んでいた。  僕は砂浜に座って、試合の行方を見守る。  智志は中学時代はバレー部に所属して、エースと呼ばれていた。僕たちの中学のバレー部は当時結構強くて、県大会で入賞したこともあった。入賞の原動力はもちろん、智志だ。高校に入ってからもバレーを続けるんだと思っていたら、意外にもサッカー部に入ってしまった。もったいないと思って尋ねたら、智志はバレーは極めたからもういい、新しい挑戦をしたいんだ、と答えた。  彼のしなやかな体が宙を舞う。力強くボールを相手コートに叩き付け、どんどん点を奪っていく。 「おい、智志! ちょっとは手加減しろって!」  友野が弱音を吐く。友野は普段新聞部に所属していて、運動はあまり得意ではなかった。そして組んでる相手の1年生、岡本も見たところ、あまり運動は得意そうではない。 ――組ませる相手、間違えたかな……  智志と組んでいる斉藤は運動が得意なようだ。上手い具合に動いて、智志のカバーをしている。  勝敗はあっという間に決まってしまった。  もちろん、智志のチームの勝ちだ。ワンサイドゲームになってしまって、会計チームには悪かったかな、と僕は苦笑した。 「はー、あちぃ。ちょっと休憩させて……」  さすがに2ゲーム連続でプレイしたので、智志も疲れたようだ。砂浜に座り込むと、頭からペットボトルの水をかぶる。 「智志、大丈夫? 無理してない?」  僕は心配になって声を掛けた。智志は僕の方を見上げ、にっこりと笑った。 「平気、平気。これぐらいでへばってらんないよ。それより、公彦は大丈夫か?」 「う……うん。僕は大丈夫」 「じゃあ、ちょっと休憩した後、もう1試合な」 ――眩しい……  僕は智志の笑顔を見ながら、目の前がくらくらするような、そんな感覚を味わっていた。

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